シズヲ

決斗!一対三のシズヲのレビュー・感想・評価

決斗!一対三(1952年製作の映画)
3.3
決斗!一対三!言うほどそんな話でもないのは愛嬌。実在のガンマンであるジョン・ウェズリー・ハーディンを題材にした作品。「15歳で殺人を犯したのを皮切りに生涯に40人以上を殺した」という筋金入りの経歴の持ち主であり、自伝出版の翌年には喧嘩の末に殺害されるなど波乱万丈な生涯を遂げている。尤も本作では好漢ロック・ハドソンが演じているので根っからのアウトローでもなく、しかし善玉と呼べるほど真っ当にも見えないという不思議な味わいになっている。60年代以降だったらもう少し仄暗いノリになってたのかもしれない。

主人公の描き方の中途半端さは否めないものの、「ガンマンとしての生き様」を否定しているのは戦後西部劇らしい。名声に疲れ果てて家庭への帰属を求めた『拳銃王』にも近いけど、この主人公は初めから「金を稼いで家庭と農場を持つこと」が目的である。ガンマンとしての腕前は言ってしまえば父親の束縛から逃げるための手段でしかないけど、それが結果的に彼の悪名を高めて平穏から逆に遠ざけてしまう。そういう内容の割に映画自体の後ろ暗さはそこまででもないし、ギャンブル好きの主人公の素行も良いとは言えないけど、アウトローを否定することに行き着く筋書きは印象的。主人公が自伝を出版社に送ろうとする描写や主人公の悪名に尾鰭が付いていく様子など、西部劇の伝説性や虚構性に意識的な点はある意味で『許されざる者』めいている。それと正当防衛に拘る主人公もそうだけど、法と秩序の行き届いていない時代においては“筋を通すこと”がヤクザなりの掟だったのが改めて分かる。

主人公の半生を80分前後の尺に収めているので展開はやたら早く、主人公の掘り下げなども含めて諸々の薄味さは否めない。ラストの展開へと至るためのガンマンの業を描くならもう少し陰が欲しかったところ。銃撃戦やレースみたいな見せ場もあるけど、全体的にそこまで盛り上がる感じでもない。しかしラオール・ウォルシュ監督による手際の良い演出と編集で話が進んでいくので、映画自体はそれなりに見ていられるという奇妙なバランスと化している。作中時間を一気に進めることで元カノへの後腐れをさっさと断ってしまう思い切りの良さには脱帽。あとロック・ハドソンはルックスが良いので壮年メイクをしてもなお華がある。若き日のリー・ヴァン・クリーフも脇役ながら格好良い。

前述の通り本作の肝はラストの展開にあるし、そこに至るまでの展開は言ってしまえば溜めに過ぎない。ガンマンとしての業を背負った男が最終的に“次世代への継承”を拒む(=負の連鎖を断ち切る)展開には確かな希望がある。『シェーン』もそうだけど、戦後に入ってから西部劇が自らの“暴力性”を自省し始めたのが伝わってくる。若者が銃を取ることの悲劇性は70年代西部劇でより破滅的に描かれることになるので、その辺りも含めて時代を越えた説得力がある。とはいえあの展開なら最後に主人公が星になっても良かったと思うけど、50年代前半だとああやってロマンスでお茶を濁すのが関の山なのかもしれない。
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