マヒロ

ハッピーボイス・キラーのマヒロのレビュー・感想・評価

ハッピーボイス・キラー(2014年製作の映画)
4.5
「キュートでポップな首チョンパスリラー」…という惹句からすると、ちょっとグロテスクなブラックコメディ的なものを想像してしまうんだけど、いざ観てみたら思い浮かべていたものとは違うとても奇妙な映画だった。

主人公の男は大人しくて人が良いように見えるが実は強烈な空想癖があり、ペットの猫と犬、果ては手袋なんかが自分に喋りかけている(というか自分の中の心の声を代弁するような形?)ように思い込んでしまう。薬を飲めばこの空想を抑え込むことが出来るが、孤独な彼にとって空想の中のペット達は数少ない友であり、そこから逃れたくない主人公は服用を拒んでしまう。
世間一般から見たら薬で症状を抑えるのが当たり前だし、実際病気をそのままにしていた彼は殺人というとんでもないことをやらかしてしまうんだけど、彼にとってそれは辛い現実を見なければならないということであって、単なるサイコキラー映画にはなっていないところが面白い。

ところがこの映画、「悲しき殺人者」という暗めな題材をブラックコメディに落とし込んだ結果、本来デリケートに扱うべきその題材をコメディ的なテンポでザクザク切り進むヘンなノリのお話になっていて、言ってしまえばかなりイビツ。
その部分が顕著に表れているのが主人公が切り分けた"肉"を大量のタッパーに詰めて台所に並べているシーンで、その余りにもぞんざいな「死」の扱いに、下手にバイオレンスだったりグロテスクだったりするのとはまた違う底冷えするような狂気を感じた。

まぁ、何度も言うようにヘンな話ではあるんだけど、社会からあぶれてもう本当にどうしようもなくなった男に対する優しい救いの目線と、最後に待ち受ける最高にクレイジーでハッピーな結末に、そのイビツさですら愛おしくなるような不思議な気持ちにさせられてしまった。監督のマルジャン・サトラビはイラン出身の方らしいけど、向こうの国独特の死生観みたいなのが映画のに反映されてたのかも。
後、今までパッとしない俳優という印象が強かったライアン・レイノルズが、"身体がデカくてヤバい奴"を好演していて良かった。

(2016.90)
マヒロ

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