真一

名もなき塀の中の王の真一のレビュー・感想・評価

名もなき塀の中の王(2013年製作の映画)
3.5
  壮絶な生い立ちを背景に、暴力🔪だけを頼りに生き抜いてきた未成年の受刑者。この「若い野獣🦍」に人としての成長を促し、社会復帰させられるだけの「人間力💞」を、私たちの社会は備えているのだろうか―。これが、この作品のテーマだと思います。

舞台はイギリス🇬🇧。主人公エリックは母親を知らず、父親にDVされ、施設で性虐待を受け、その後ストリートで犯罪を繰り返してきた非行少年👤だ。その凶暴さゆえ、少年院から刑務所に移送されたところから物語が始まる。

刑務所では、刑務官👥が力👊でエリックを制圧しようと動く。だが、カウンセラーのオリバー👤は、グループ・セラピーを通じてエリックを更生したいと訴え、刑務官との路線対立を起こす。そこに、エリックの父親👤が絡んでくる。父親は同じ刑務所に、終身刑で収容されていたのだ。父親は何事も命令口調でエリックを支配しようとする。一体誰が、この凶暴な少年の閉ざされた心の扉を開けるのか。ここが、見所だ。

※ここからネタバレあり。

 エリックは徐々に、オリバーが主催するセラピーに足を運ぶようになり、他の受刑者と摩擦を繰り返しながらも、人の話を聞いたり、相手の言葉を信じたりすることを学ぶ。だが、そのままハッピーエンドで終わるほど、現実は甘くなかった。終盤に、いやーな展開が待ち受ける。更生プロジェクトは、屈服しないエリックに私怨を抱いた刑務官たちによって、失敗に追いやられるのだった。しかも父と息子の血みどろの親子げんかが勃発。エリックの更生に対する期待を見事にへし折ってくれます。

でも、本作品を見て思う。「エリックを救う手だては、あのセラピーしかない」と。セラピーは、最低限の人間性を学ぶ場だった。凶悪さ、野蛮さの背後には、貧困や劣悪な生活環境によってもたらされた「人間性の欠如」があるはずだ。それを取り戻さない限り、人は人たり得ない。もちろん、それは簡単なことではない。それを伝えたくて本作品は、あのような胸クソの悪いストーリーにしたのではないかと思う。

 場面は終始緊張感⚡に満ちている。ギラギラした主人公の目👁️、口元👅を超アップで映し出すことで「こいつは何をしだすか分からない」という恐怖心を見る人に抱かせる。背景描写も丁寧。刑務所の古ぼけた回転扉、ペンキがはげ落ちた独居房のドア🚪にピントを合わせた長回しが、いわく言い難い渋さを醸し出している。とにかく、リアル!

 父子が和解する場面が何とも不自然で、減点要因。全体的には、まずまずの良作でした。
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