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青い体験のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

青い体験(1973年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ブロカ家の妻が亡くなり、遺された夫イニアツィオと息子三人の悲しみは、家に美しいお手伝いさんアンジェラがやってきた日からバラ色に変わる。父親のイニアツィオは年甲斐もなくスケベ心に駆られ、やがて彼女との再婚を決心。だが性に目覚める年頃の三兄弟の次男ニーノも、義母となるアンジェラに欲情していく…。

懐かしい!配信で見つけた瞬間に鑑賞。
昔、恋した女性が当時のままの姿でばったりと出会った感覚である。
子どもの頃、TVの深夜放送で流れていたのを親に隠れて見てたっけ…。
だが、ひたすらドキドキしながら見ていたために内容は良く覚えていなかった。
吹き替え版じゃなく字幕で、しかもじっくりと落ち着いて見たのは初めてかも。

イタリア映画のお家芸である艶笑もの。
内容に反して印影のある美しい映像はノスタルジックで、演出は思春期の少年のアンビバレントな心理を良く描いていてなかなか面白かった。
エロチックコメディの佳作である。

大人になりきれないが、大人扱いして欲しい思春期・反抗期。
まだ甘えたい年頃の少年が母親を亡くし、落ち込んでいるところに、女盛りの熟女が家政婦としてやってくる。
色気にあてられた少年は、母性ではなく性を目覚めていく。

男の子は自立心(反抗期)に目覚めると「何で愛する母親はこんな男と結婚したんだ?」と父親に対抗心を抱くもの。
やって来た優しくて美人な家政婦に惚れてしまったが、好きな女性が再度目の前で父親に奪われようとしている。
父親に対抗したいが彼女に見合う年齢でもなければ、愛する術も財力もない。
子どもという立場を利用して甘えたいのだが、男らしさを見せたくて、つい強がってしまう。

優しくすれば良いのに、好きな女の子につい意地悪をしてしまうというやつだ。
求めてやまない女性が父親のものになることへの悶々たる思いが、次男を彼女への意地悪(セクハラ行為)に走らせるのである。

家事をこなし、まじめに働くアンジェラに、父、兄、そしてニーノが夢中になり、脚立に上がって窓を拭くアンジェラのスカートの中を3人が覗く。
ミニスカートから覗いた美脚に貼り付くガーターベルトが何とも色っぽい。
序盤は親子3人によるアンジェラ争奪戦が、男のスケベ心を描くコメディだ。

ニーノはアンジェラの部屋に忍び込み、匂いを嗅いだり、下着を物色。
何とかして気を引きたいニーノはエプロンに薔薇の花を忍ばせる。
気付いたアンジェラは「子どものすることは可愛い」と口に出さずに知らぬふり。
全く相手になどされていないが、アンジェラを誘惑しようとする兄とニーノは喧嘩する毎日だ。

ある夜には父がアンジェラの部屋に入ろうとする。
アンジェラを父に取られたくないニーノは、グラスを階下の父の店に窓に投げつけ、警報機を鳴らして邪魔をする。
突飛な行動を取るあたりにニーノの本気が見て取れる。

だがある日、父がアンジェラに求婚。
そして父は自分の母親の了承を貰うため、実家に息子たちとアンジェラを連れて帰るが、母親は「身分が違う」と結婚に賛成しない。

父とアンジェラの結婚を妨げようとするニーノは、寝ぼけた幼い弟に死んだ母親を思い起こさせ「ママ」と叫んで泣くように仕向ける。
アンジェラがなだめに来るが、弟は「ママじゃない」と泣き続ける。
(父と結婚せず、僕と結ばれるんだという想いから)母親代わりにはなれないとアンジェラに思い込ませるニーノの姑息な作戦である。

ニーノが弟を泣かせたことで、「自分が子どもたちに嫌われている」と思い込んだアンジェラは家を出ていこうとする。
ニーノは必死で説得し、アンジェラは踏みとどまる。
「やっと落ち着いた暮らしが出来ると思ったのに…」と泣くアンジェラ。
アンジェラとて訳アリなのだとセリフで分かる。
そうでなければ、こんな美女が親子ほど歳の違うニーノの父との結婚をする訳がない。
アンジェラは何かしらの理由でバツイチになって生活に困ったか?または妻子ある男との不倫でズルズルと婚期を逃したのか?…などと想像してしまう。
いずれにせよ、安定した暮らしを求める貧しい哀れな女性なのだろう。

しかし、これでアンジェラはニーノに対して弱みが出来てしまう。
子どもたちに嫌われて、結婚を反故にされたくないのだ。
アンジェラはニーノの言いなりとなり、今で言うセクハラの数々を受ける。
リビングでテレビを見ればニーノに太ももを触れられ、「ブラジャーをしないで」「パンティーを履かないで」とエスカレート。

ノーパンで脚立に登らせて本棚から本を取らせ、「ヌードを見せろ」と命令するが、一人で見る勇気が無く、友達と一緒に小窓から覗き見する。
どう女性を口説けば良いのか分からず、ただ脱がせていじめることしか思いつかないニーノ。
未知への行為に対する渇望はあれど、自分は無知で自信などない。
大人になりたくて背伸びしているが、実は臆病な子どもという思春期の相反する感情
がニーノからは良く伝わってくる。
「男らしく」ありたいが、「男らしさ」って何だか分からずに自分自身にも悶々とするのである。

抑えきれない性衝動はやがて友人から銃を借りてアンジェラを脅すという策にまで発展する。
「男らしさ」とは「強引に力づくで」と完全に勘違いだ。

そしてアンジェラとの結婚を祖母が許したと父から電話の報せが届いた晩は、猛烈な嵐になる。
父は帰れず、兄も出かけて戻れなくなる。
弟が寝て2人きりなった時、家は停電に。
アンジェラの服を脱がせたニーノは懐中電灯を持って良く裸を見ようとするが、アンジェラは逃げ出して家中を追いかけっこ。
形の良い乳房やお尻が揺れるのがエロチックだが、裸の女性と笑いながら追いかけっことはメルヘンな絵面である。
するとアンジェラが懐中電灯を取り上げ、ニーノの上に乗る。
そして「教えてあげる」とニーノに初体験を味あわせるのだった…。

男の願望が強すぎるのが本作の難点。
色っぽい年上のお姉さんに性の手解きを受けるなんて、完全に身勝手な男のロマン。
妻を亡くして美人と再婚と出来る父親の立場もそうだ。

女性から見ればどいつもこいつも「このスケベ野郎」と罵られるのが関の山。
現在の目で見れば、「性の捌け口にしか思っていない」と女性からブーイングの嵐だろう。
だが男の目から見れば羨望と共感の嵐だ。
好きな女性を逃したくないが、つい意地悪をしてしまう少年期の強がりをニーノから懐かしく感じてしまう。

ラストは父との結婚式で見つめ合うアンジェラのニーノ。
「今後もニーノとアンジェラの関係は続くのかも」と思わせる意味深な演出がニクイ。

思春期は誰にでも訪れる懐かしいもの。
見事な構図と柔らかな光と色で、絵画のようにノスタルジックに仕上げた美しい映像が素晴らしい。
さぞかし名のあるカメラマンと思ったら、撮影監督はベルナルド・ベルトルッチ作品でお馴染みのヴィットリオ・ストラーロ。

性に目覚めた頃の男の子の抱く感覚を、映像も物語も、とても瑞々しく描いている作品である。
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