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博士と彼女のセオリーのkomoのネタバレレビュー・内容・結末

博士と彼女のセオリー(2014年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

1960年代のケンブリッジ大学。物理学を専攻するホーキング(エディ・レッドメイン)は、文学専攻のジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)と出逢い恋に落ちる。
ところがホーキングは在学中、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病に冒されてしまう。次第に筋肉の力が衰えてゆくことや、余命がわずか2年であることを知りながらも、ジェーンは覚悟を抱きホーキングと結婚する。
ホーキングは病と闘いながら宇宙論の研究を続け、幅広い読者へ向けて記された著書がベストセラーとなった。彼の命は尽きることなく、3人の子どもにも恵まれるが、愛の力だけでは乗り越えられない試練が夫妻を待ち受けていた。


フォロワーさんにお勧めいただいて鑑賞。素晴らしぎるエディ・レッドメインを堪能してしまいました。
世紀の天才というだけでも責任のある役どころなのに、肉体や顔面の筋肉の硬直を表現しつつ、しかも"知的活動には一切の影響を受けていない"人物の役なんて、難しいどころの話じゃないですよね…。
エディのオスカー授賞に最大級の祝辞を贈りたいです👏👏👏

ジャケットは本編に登場するワンシーン。この画がメインイメージに登用された意味を深く感じました。宇宙を知る者が恋にも焦がれてゆくロマンチックさ、そして人間の可能性の無限さがこの構図に詰まっていました。

病という運命を乗り越えて愛を交わす二人の光景を観ていると、心地よい波にさらわれるよう。
しかしそんな二人の関係は、永遠に続くことはありませんでした。
ホーキングの生涯のすべてを担うことを誓っていたジェーンは、彼と離れることで批判を受けたかもしれませんし、映画化されることによって更に多くの人の願いを裏切ってしまったかもしれません。
とは言っても、どれほど実話に忠実な映画がつくられたとしても、離婚に至った真意やそのために払った代償、そしてその後に築いた人生の真価については、もちろん当事者にしか知りえません。

離婚というのはただでさえ重大な出来事であるし、ましてや一方が重い病を持っているのであれば、そのプロセスは更に難儀なものになると思います。
それでも新たな人生へと進むことを選んだふたり。

目の前の道が数多に分岐してゆく人生において、その頭上に広がる空がいつも同じ色をしているとは限りません。空が不穏な色をしているならば少しでも安全な道を選ばなければ、命の保障はないのです。

ホーキング博士は生命の危機に脅かされていただけでなく、研究や執筆に対するモチベーションや価値観も守らなければならない立場であったため、誰よりも悩みながら足場を探し続けた人生であったのではないかと思います。
時には、選び取ることのないはずの道の向こうで誰かが手招きしていることもある。
綺麗事だけでは道は決められない。
凡人である私も、美しい詩人も、たとえ宇宙のことわりを知る博士であっても。

病を抱える人物が偉業を成し遂げると、それは『成功神話』のように語られることがあります。
しかしホーキング博士が成し遂げたことは決して奇跡などではなく、なるべくしてなったこと。そういった過程がきちんと描かれている映像群だと感じました。
「生きている限り希望はある」。
困難を経た人の発言だからこその素晴らしい説得力。その信念こそが博士のセオリーそのものであったのだなと思います。

そして人間の愛は形を変えたり、喪われたりするけれど、その途中の道で残した証は必ず残ります。ラストシーンの三人の子供たちの姿がまさに、元夫妻が歩んできた道の象徴でした。

今作で初めて聴いたはずのBGMがやけに耳馴染みが良いと思ったら、ヨハン・ヨハンソン氏の楽曲でした。
ヨハンソン氏はこの作品と同監督の『喜望峰の風に乗せて』が記憶に新しいのですが、昨年ご逝去されました。48歳は早すぎます…。
人の心にそっと寄り添うような美しい楽曲を沢山ありがとうございました。

ジェームズ・マーシュ監督は非常にシビアな実話を次々に写実化されていて、毎回とても学ばせてくださいます。今後はどんな題材に注力されるのかとても楽しみです。
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