鹿山

ストレイト・アウタ・コンプトンの鹿山のレビュー・感想・評価

4.1
 「なぜラッパーは悪さ自慢をするの?」
​​ 「なぜラッパーは成金自慢(セルフボースト)するの?」
​​ 「なぜラッパーは言葉遣いが攻撃的なの?」
​​ 最初、誰もが素朴に抱くであろう疑問に、この映画はもっとも望ましい回答を提示する。『8マイル』と並ぶ、あるいはそれを凌駕するヒップホップの入門映画だ。ヘッズ目線でも当然面白かったし、「Dr.Dreって誰やねん」って門外漢にもぜひ勧めたい。てか、大学の授業の教材にすらなるのでは?
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​​ 本作は、N.W.A.自身やギャングスタラップの歴史を押さえているのはもちろん、ヒップホップが孕む政治性も余すことなく描写している。そもそもアイス・キューブは秀才(理系大学生)であり当事者ではなく観測者だったこと、白人から浴びせられた差別用語を用いて歌詞を書いたらそれが白人のパンクスや不良青年に売れてしまうこと、FBIやメディアとの攻防、これらさまざまなエピソードが描写される。ギャングスタラップが案外複雑な経緯で成立し、そして一定の社会的意義があることがひとめでわかるはずだ。
​​ もちろんだからといって、ギャングスタラップが絶対の正義であるとは限らない。むしろギャングスタラップにも差別は多分に内在している。たとえば、ミソジニー(女性差別)やホモフォビア(同性愛差別)、反ユダヤ主義など。それも美化せずきっちり描いているのは誠実だ。
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​​ 演出面に関してはやはり音楽遣いがどれもいい。あと、ライブシーンの熱狂やラッパーの表情の映し方も。鑑賞前は「F・ゲイリー・グレイ? あぁ、『ワイルドスピード アイスブレイク』の監督ね」なんて認識だったが、どうやら彼はもともとヒップホップ系のミュージックビデオ監督だったようで、長年シーンを牽引してきた当事者だと。なるほど、随所のスローモーション演出がうまく機能しているのもこれに起因するのか。
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​​ 本作のハイライトを挙げるとするなら、なんといってもエピローグだろう。ミュージックビデオ的演出をフルに駆使しつつ、N.W.A.の影響は今もなお波及していることを証明する。ヘッズなら全員、あそこで鳥肌が立つんじゃないか。そして気づくだろう。哀しい哉、今日においてもアメリカ大陸には有色差別が蔓延っている。Black Lives Matter・Asian Hate Crime。つまり現代社会にも、押韻する理由──Rhyme & Reason──は大いに残されていると。
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