サマセット7

オデッセイのサマセット7のレビュー・感想・評価

オデッセイ(2015年製作の映画)
4.2
監督は「エイリアン」「ブレードランナー」のリドリー・スコット。
主演は「グッドウィルハンティング」「ボーン・アイデンティティ」のマット・デイモン。
原作はアンディ・ウィアーのSF小説「火星の人」。

[あらすじ]
有人火星探査計画「アレス3」に従事して火星でミッションを遂行中のクルー6名は、砂嵐に見舞われ、火星からの緊急離脱を決意する。
離脱間際に飛来したアンテナと衝突したマーク・ワトニー(マット・デイモン)は、闇の中に消え、生体反応も消失する。やむなくクルーたちは、ヘルメス号に乗り地球に帰還する。
しかし、マークは生きていた!!
基地内を除き呼吸できる空気なし、大量の水なし、食糧は半年分しかなく、地球への連絡手段なし、次に火星探査が計画されているのは4年後、という絶望的な状況を前に、マークは、残された物資と知恵を武器に、生還を目指すが…!!

[情報]
数々の名作、傑作の監督として知られる、リドリー・スコット監督による、2015年のSF映画。

原作小説、アンディ・ウィアーによる「火星の人」は、もともとweb小説として書かれ、その後自費出版されてヒットした。
国内外で評判となり、日本でもSF小説ランキングのトップに選ばれるなど、SF好きから評価されていた小説である。

原題「The Martian」は、火星人の意味。
日本語題名「オデッセイ」は、オデュッセイア、すなわち、故郷を旅立ち長年帰還に向けて苦難の旅を続けたギリシアの王オデュッセウスの冒険を題材とする叙事詩を意味する。
邦題としては、まあ、悪くない部類か。

リドリー・スコット監督は、言わずと知れた名匠であり、完璧主義者として知られる。
今作では、科学考証にかなりの注意を払っており、リアルな火星での生活を観ることができる。
すでに人類は火星に行っているのではないか、と誤解しかねないレベルだ。

今作のストーリーは、1人火星に取り残された宇宙飛行士のSFサバイバルと、彼を救い出さんとする地球側の奮闘を描く。
アポロ13・ミーツ・ロビンソー・クルーソーという感じか。
と、聞くと緊迫した展開を思い浮かべるし、たしかに展開は緊迫しているのだが、主人公の前向きかつユーモアを愛する性格と、ポップミュージック(70年代ダンスミュージック)の多用による、ポップかつキャッチーなタッチに特徴がある。
冷厳な現実をシリアスに描くことが多いリドリー・スコット監督作品としては、かなり異色な作品である。
80代に手が届くという年齢で、異色作を撮るあたり、全く只者ではない。
これは、ユーモラスなタッチの原作がかなり影響しているように思われる。

今作は、批評家、一般層いずれからも広く好評を受けている。
アカデミー賞作品賞を含む7部門ノミネート。残念ながら1部門も受賞しなかったが、ゴールデングローブ賞ではコメディ部門の作品賞と主演男優賞を獲得している。
今作は1億0800万ドルで作られ、6億3000万ドルを超える大ヒットとなった。

[見どころ]
一難去ってまた一難!!
主人公を次から次と襲うトラブルから、目が離せない!!!
リドリー・スコット監督のチームによる、完璧に再現された火星世界!!!本物としか思えない!
ウルトラポジティブな主人公をはじめ、変人ばかりのNASA関係者たち!!!
陽気に作品を盛り上げるポップミュージック使い!!
肉体改造を含むマット・デイモンの作り込み!!
ポジティブなメッセージ性!!!
元気が出る!!!

[感想]
最高!!!

原作者のアンディ・ウィアーの最新作「プロジェクト・ヘイル・メアリー」はオールタイムベスト級の傑作SF小説だった。
感心した流れで、アンディ・ウィアーのデビュー作を原作とする今作を鑑賞。

リドリー・スコット監督作、マット・デイモン主演、脇役もショーン・ビーン、ジェシカ・チャステイン、マイケル・ペーニャ、セバスチャン・スタン、ジェフ・ダニエルズ、ベネディクト・ウォン、キウェテル・イジョフォーと、豪華キャスト集結。
最高でないはずがない。

美術、背景、宇宙描写のリアリティは、さすがリドリー・スコット。
荒野と砂の世界である火星描写は、DUNE砂の惑星を思わせる迫力。

そんな世界で、畳み掛ける苦難の連続は、まさにノンストップ・サバイバル。
追い込まれるたびに、主人公マークは、前向きに立ち向かう。
科学的な知識と工夫を武器に、数々の難関をクリアしていく点が、まずは何より面白い。
ジャガイモ!!
意思疎通!!
いかにタイムリミットをクリアするか!!??

マークやNASAの面々が、ユーモアとポップさを失わないところがなんとも良い。
クスッとなるシーンがいくつもある。
なかでも、船長が残したCD(70年代ディスコミュージック)いじりが楽しい。
超有名曲ホットスタッフが鳴り響くシーンは、まさにホットだ。

音楽の使い方は、2014年のガーディアンズオブギャクラクシーの成功が念頭にあったかわからないが、同作を彷彿とさせるポップミュージック使いを見せる。
作中の人物が編集した音楽リスト、というあたり、よく似ている。

終盤までテンポ良く、飽きさせない。
原作にはないエピローグ的ラストシーンも良い。

[テーマ考]
原作準拠のテーマは、今作でより強調されている。

すなわち、科学とユーモア、工夫と諦めない心こそが、窮地を救う。
だからこそ、人間は、素晴らしい。

全編、マークやNASAのメンバーたちの言動、姿勢、苦難に対するリアクションが、いずれもこのテーマに寄与している。
マークが知恵と冗談で危機を乗り換える姿は、「笑いって大事!!」「勉強って大切!!」と自然に思わせられる。

ラスト、マークの問題解決に関するセリフは、原作者の人生観に違いなく、教訓として示唆に富んでいる。

[まとめ]
傑作SF小説を原作とする、前向きでユーモラスな、火星サバイバルSFの秀作。

今作の原作者による傑作小説「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は、ライアン・ゴズリングにより、映画化が予定されているとか。
こちらも大いに期待したい。