Donatello

オデッセイのDonatelloのレビュー・感想・評価

オデッセイ(2015年製作の映画)
3.8
「トウモロコシ畑を耕していたお父さんが宇宙に行って人類を救う」みたい話が大好きなので、火星でジャガイモを育てる話もまぁ嫌いではありません。

キュアロン監督やらノーラン監督が頑張ってSF撮っちゃうものだから「いやいやSF映画言うたらオレやろ」って言ったかどうかは兎も角、リドリー・スコット監督が『プロメテウス』の続編放ったらかして敢えてこういう作品で攻めてくるあたり好感が持てます。

火星。
それはSF映画における至高の舞台。
人類が未だ到達していないにも拘らず、適度に人類が行けそうで、適度に謎めいていて、適度に問題がありそうで、適度にリアリティを醸し出すことができるという意味では最高です。

そんな訳で、連れて行ったロボットが狂ってクルーを襲い始めたり、意味不明なウィルスでクルーが狂人化したり、最近ではゴキブリ人間が蔓延る惑星になっていたりするのももう仕方がないことなのです。

そんな中、火星で発生した砂嵐で吹っ飛ばされるマット・デイモンさん。
至ってあり得そうです。普通です。
「いや、あり得ないだろ!」と思ったアナタ。気持ちはわかりますが、黙っていましょう。火星で砂嵐とか発生するわけないだろと知っていても、口にしたが最後、「コレだからSFオタクは…」と言われてしまいます。
「プロメテウスと同じじゃねーか!」と思ったアナタも黙っていましょう。
リドリー・スコット監督が悪いのではなく、原作からしてそうなのです。

そうです。「宇宙大百科」とか読んでいそうな小学生の男の子がメガネくいっとやりながら「なんかいちいちおかしいんだよね」とか言いそうでも、そんなことには目を瞑って、主人公のひたすらなポジティブ・シンキングを楽しむ映画なのです。

「エアロックで吹き飛ばさせたらハリウッドいち」との呼び声も高いマット・デイモンさんですからして、今回も吹っ飛び方が素晴らしい。

またその他の配役も見事です。
特にショーン・ビーンさんのラストショットには胸を打たれました(終盤にラストショットがあるという普通のことに)。

SF好きには面白い本があると元々話題になっていた「火星の人」の映画化ですが、結果として相互補完のような形になっていて、映画を観てから原作を読んでも、原作を読んでから映画を観ても、どちらも楽しめる割と稀な作品だと思いますので、原作も用意して、両方堪能するとより満足できるのではないかと思うところです。

ただ敢えて一言言わせてもらえるなら、ISSへ実際に物資供給ミッションを完遂した「こうのとり」や、実際にイオンエンジンで小惑星着陸サンプルリターンに成功した「はやぶさ」などの、日本の功績が何らかの形で触れられておらず、何故かそういう技術に関係のない中国が突発的に出てくるところに商業的思惑を感じたのは大変残念。

とは言え、主人公の如何なる時にもユーモアを忘れない姿勢には、ワタクシのような生真面目な人間には大変羨ましく思え、胸に響くものがありましたので、ジャガイモをレンチンしてバターを乗せながらホクホク食べつつ観ると、非常に臨場感溢るる作品だと思います。
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