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モデル・ショップのakrutmのレビュー・感想・評価

モデル・ショップ(1969年製作の映画)
4.0
西海岸ロサンゼルスを舞台に、無職の男性とフランス人女性の間に起こった1日の出来事を描いた、ジャック・ドゥミ監督の恋愛ドラマ映画。少年の頃からアメリカに憧れていたジャック・ドゥミが、『シェルブールの雨傘』がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされて渡米した際に、西海岸を気に入りここで映画を撮りたいと切望し、コロンビア・ピクチャーズと契約をする。そして、一度フランスに戻って『ロシュフォールの恋人たち』を撮り終えてから、妻のアニエス・ヴァルダとともにLAに移住して、初めて全編英語で撮ったのが本作というわけである。

ジャック・ドゥミにとってはこのように思い入れの強い作品だったであろうが、興行的には大きく失敗し、批評家からの評価も決して良くなかった。コロンビア側は、今までのドゥミ作品に続くような派手なミュージカル映画を期待していたみたいだが、結局、製作費用があまりかからなかったために、興行的に失敗してもドゥミの評価は下がらず、本作後にも新たな作品のオファーを出している。結局、ドゥミは本作のみでアメリカを後にして、それ以降はまたフランスで映画を撮ることになる。そんな本作は、今となっては、ジャック・ドゥミ監督を語る上では、忘れ去られた映画と言えるだろう。

今までのドゥミ作品に馴染みのある人ならば、アヌーク・エーメが出てきてローラという名前であるとわかれば、『ローラ』の主人公ローラの後日譚であることはすぐにわかるだろう。ジャック・ドゥミは、『ローラ』以降、綿々とつながっている壮大な物語をフランスではないロサンゼルスという地で完結させようとしたのである。しかし、ジャック・ドゥミの過去の映画なんて知らない(アメリカの)ほとんどの観衆にとっては、ある男女の平凡な一夜の物語を見せられても面白いとは感じなかったのだろう。

確かに本映画を単独で見ると、ストーリー的にはそれほど面白みはない。同棲している彼女に文句を言われ、借金を明日までに返さないと車を持っていかれてしまうという無職のさえない男性が、街中で偶然に出会った女性の素性を追うまでは多少面白いかもしれないが、その後はありふれている。しかし、本作の良さはそこにはない。ローラの後日譚という意味あいがあるので、ローラと結婚したミシェルが、『天使の入江』でジャンヌ・モローが演じたギャンブラーの女性と出来てしまったとか、アメリカ兵のフランキーはベトナム戦争で死んでしまったというようなエピソードが挿入されていき、そういう部分をドゥミのファンとしては楽しむことができる。一方で、アヌーク・エーメがちょっと歳を取ったせいか『ローラ』のローラよりも魅力的に感じなかったのはちょっと残念ではある。(『ローラ』は白黒だったという違いのせいなのかもしれない。また、本映画はちょうどフランスの五月革命の時期に撮影していたため、アヌーク・エーメが渡米するのが大変だったという点も関係しているのかもしれない。)

さらに本作が素晴らしいのは、主人公のジョージやローラが車でロサンゼルスのいろいろな場所を走り回るシーンである。夜明けのビーチ沿いから始まり、ロサンゼルスの街中やビバリーヒルズの小高い高級住宅街までを、フランス(例えば『ローラ』のナント)とはまた異なる雰囲気の美しい映像で見せてくれる。さらに、ヒッチハイクするヒッピー女性、泥沼化していくベトナム戦争など、当時のロサンゼルス(西海岸)の雰囲気を見事に表現している点も、見どころかもしれない。

なお、本映画で映し出されるロサンゼルスの映像を見ていて思い出したのが、デイミアン・チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』。チャゼル監督が『ラ・ラ・ランド』を製作するときにイメージしたのがジャック・ドゥミの2本のミュージカル映画であることは自明であるが、さらにそれに加えて、実際に本作も大いに参考にしたそうである。確かに、街の撮り方がよく似ているのである。
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