むーしゅ

マイ・ベスト・フレンドのむーしゅのレビュー・感想・評価

マイ・ベスト・フレンド(2015年製作の映画)
3.7
 Morwenna BanksがBBCラジオ4向けに執筆したドラマ"Goodbye"を原作に製作された作品。原題の"Miss You Already"は2人の別れの挨拶ですが、なんでまたこんな邦題を付けたのか謎です。そのままのタイトルが十分二人の関係性を示していると思うんですけどね。

 幼少期から大親友だったミリーとジェスは大人になっても家族ぐるみの交際を続けている。ところがある日ミリーに乳がんが見つかり、担当医が両乳房の切除が望ましいことを告げる。そんな中、不妊症治療の成果が出て妊娠が発覚したジェスは親友ミリーにそのことを告げたいのだが・・・という話。女同士の友情もので、しかも「セックス・アンド・ザ・シティ」のような複数人ではなく2人を描いているというのは結構貴重かもしれないですね。さらに乳がんと妊娠というこれまた女性にとって大きな転機となる出来事を描くという。当初「アンコール!!」のPaul Andrew Williamsが監督をする予定がCatherine Hardwickeへバトンタッチしたようですが、逆によくPaul Andrew Williamsは監督しようと思ったなと思うほど女性目線の映画です。

 そのような状況のため本作は男女によって非常に感想が異なる映画だと思います。男性側から見ると、女性同士のリアルさを見れた気はしますが、彼女たちが強すぎちゃってるというのが正直な感想でした。自分が同じ立場になったとしたら、きっと彼女らの夫たちと同じ反応をしてしまうし何もできないで終わると思います。特にDominic Cooper演じるキットの気持ちがよくわかり、彼女らが強すぎることにより結構遠い距離を感じてしまいます。逆に女性からすれば共感の連続で感情移入もしやすいのではないでしょうか。ある意味女性同士の友情が学べる教科書かもしれません。

 さてそんなこの映画の見どころはまさに2人の親友同士の絡み方。オーストラリア出身のToni Colletteとアメリカ出身のDrew Barrymoreがイギリス人を演じるという面白いキャスティングはさておき、イギリスらしいユーモアたっぷりの会話が面白いです。特に病院での検診のシーンは最高。看護師のサムに「歳上の友達、ジェスよ」と紹介し、すかさず互いに中指を立てあうなど徹底したコンビネーション。けなし合える関係性というのは清々しくてかっこいいですね。またミランダやウィッグ専門家ジルなどその他の登場人物も皆、皮肉屋。変に気取っていない女性キャラクターが、下ネタも悪口も含み言いたいことを言っているという雰囲気が映画全体に広がっており、ストーリーの割には重い空気を感じないまま進んでいきます。ミリーは2児の母でもあるので、子供を使って泣かせる方向に持っていくのは簡単なのに、ほぼ使わずに進めていくところも良かったですね。

 とはいえ軽いといえば軽いのも事実。それも狙いなのだとも思いますが、最後まで会話劇を楽しむ状態で終わってしまいます。これはこれで良い作品ではありましたが、印象という意味では薄かったです。特に「嵐が丘」の舞台ハワースへの旅行から雲行きが怪しくなっていきます。後半はそれぞれにビックイベントが控えているにも関わらず、意外とあっさり物語は終息し予定調和のようで、前半のユーモアのセンスはどこへいったのでしょう。もう一歩印象を強めるなら後半にもう少し泣かせる展開があっても良かったのかと思いますが、この辺りは微妙な匙加減ですね。本気で泣かせようとしてきていないことが良さではあるので、あと小さじ一杯分くらい、それくらいで良いので心をくすぐって欲しかったです。ただいじるとバランスをミスしそうなので、Drew Barrymoreいいなぁで終われる今の形は妥当なのかもしれません。

 ところで物語のキーになっているミリーの愛読書はなぜ「嵐が丘」だったのでしょうか。「嵐が丘」といえば復讐劇。女性同士の友情とはあまり親和性がないように思います。ひとつ理由があるとすれば「嵐が丘」がアーンショウ家とリントン家の二家族を中心に構成されているのに対し、本作はミリーとジェスの二家族がメインとなっていること。ただ二家族の関係性や結末は全く異なっているため、あまり関係性があるようには思えません。まぁ挿し絵への落書きが印象的だったので良しとしておきましょうか。ただこの二家族のバランスは良いですね。どちらかといえば遊んでいたミリーはイケメンだけどちゃらんぽらんそうな夫を捕まえたのに事業が成功して富を得る。対する真面目なジェスは年上の冴えない夫と家なし船上生活。しかし二人に起きた出来事がそんな二人の立場を逆転させてしまう。嫉妬が常に存在しそうな状況の中、最後に意地でもジェスの出産に立ち会おうとするミリーがかっこよかったです。女性同士の友情とはこういうものなのでしょう!

 さて何といっても「ミリーは何でも私より先だった」このセリフが印象的ですね。見終えるとそういうことね、となりますし。いつだって先にいってしまうんですよ。ちなみにミリー役のToni Colletteは早々に決まったようですが、ジェス役はJennifer AnistonからRachel Weiszになり、その後Drew Barrymoreに決まるという変更があったそうです。こんなところでもミリーはジェスより先だったようですね。
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