オレンジペコ

起終点駅 ターミナルのオレンジペコのレビュー・感想・評価

起終点駅 ターミナル(2015年製作の映画)
4.0
「闘え、鷲田完治、負けるな」
この言葉は冴子にとって、誠実であれ、という意味だと感じられました。
鷲田寛治は誠実になり切れない、どこか八方美人、成り行き任せの人。学生運動も付き合いのノリだったのではないのか?いい顔をした結果、その呪縛に苦しむ人。そんな彼を理解していたからこそ、水商売をして弁護士試験に合格するまで彼を支えていた冴子は、彼の合格後にそっと姿を消したのでしょう。負担にはなりたくない、と。

再会後の彼はやはり同じ調子。今は闘っているの?と冴子に問いただされ、うんと肯定するもどこか煮え切らない感じ。寛治も冴子を彼なりに愛していたのでしょうが、家庭や仕事を考え忸怩たる思いがあったのでしょう。ならば下手に冴子に手を出さなければいいのに、半分しかない誠実さで将来の約束をしてしまう。そして後悔する。

彼の不誠実を表すシーンがいくつもありました。
姿を消した後「探した?」と冴子に聞かれてもはっきり答えられない寛治。
彼女の店に通うのも雪の中で何本もタバコを吸いながら逡巡している寛治。
一緒に暮らそうと言った後、冴子が抱きついてきた時も抱き返そうとした手を中途半端に宙に浮かせ困った表情を浮かべる寛治。
涙をこぼしながら寛治を愛撫する冴子は、再び消えようと決心をします。

一途過ぎる冴子は今度は完璧に消えよう、死んでしまおうという思いにとりつかれていたのでしょう。
「駅に着くまで他人のふりをしようか?」と寛治に提案するのは、冴子のせめてもの恩情でした。他人のふりをしてあげるから、あなたは逃げてもいいよ、という優しさ。事実、冴子が身を投げた時、冴子の読み通り、寛治は逃げましたね。ふるえながら、足をもつれさせながら、関係ないふりをして。とても卑怯でした。

自分の死を恋しい人に見せて決着をつける…確かに残酷な方法でしたが、あなたの前から消えてあげるけれど、せめて私のことを忘れさせないという冴子なりの強烈な思いがあったのか。
寛治は自分の卑怯さを恥じたからこそ、家族も出世も諦め一人生きていくことで贖罪しようとしたのでしょう。雪の中タイトルが出て音楽が流れるとき寛治のどうしようもない後悔が感じられ、切なかったです。

尾野真千子さん、きれいでした。どなたかがおしゃっていた滅びの美が切ないほど体現されていたと思います。短い登場シーンだったにもかかわらず、強烈な印象を残した冴子。ある意味怖い女でした。

尾野真千子さんの演技だけで4点です。その後のストーリーはまあまあですかね…。
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