ブタブタ

ハイ・ライズのブタブタのレビュー・感想・評価

ハイ・ライズ(2015年製作の映画)
4.5
上層階と下層階の関係はそのまま現実の階級社会のメタファーとか、JGバラードの原作小説は色々評論はありますが。
高級最新型高層マンションと言う入れ物の中で次第に自己を無くしていき狂気に蝕まれていく人々。
塵一つない人工の空間がやがて血みどろの地獄絵図に変貌する様や最近の「ゾンビがでないゾンビ物」狂った人々による社会の崩壊。
「外部」とそれによって変化して行く(又は変化しない)ロバート(トム・ヒルズストン)の精神と言う「内部」の対比。
未来的高層マンションの中で逆に原始石器時代に退行して行く住人たち。
ロバートは主人公ながら余り目立つ存在ではなくあくまで狂言回しで傍観者に近い。
もう一人の主人公とも言うべきワイルダーが暴力と性欲、欲望を爆発させるのとは対照的にロバートも確かに狂気に侵され行ってはしていても、もっと内面的に静かに狂っていると言うか狂気を受け入れ上手く共存している感じ。

狂った世界に対してそれを何とかするのではなく順応して行くのも、人はどんな状況でも生きていかないとならないしそうあるべきと言うのかバラードの考えかも知れない。

原作が書かれた時、70年代は近未来でしたけど、映画化にさいしては時代設定を変えず、架空の近過去を再現したレトロ・フューチャー的美術デザイン、ディストピア世界の舞台芸術は見てるだけで飽きませんでした。

とはいえやはり映画化・映像化した事による最大の見どころはロバートを演じるトム・ヒルズストンの美しさとカッコよさでしょう。
鍛えあげた肉体からスーツ姿、グレーのペンキを塗りたくった前衛アーティストみたいな姿まで、その虚無感を漂わす存在感とクールな立ち姿はまるで市川雷蔵のようで、周りで起こる乱痴気騒ぎや狂っていく世界に対して何処までも無関心に見えて冷徹であり、それと同時に誰よりも邪悪な存在に見えて素晴らしかったです。
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