kkkのk太郎

デッドプールのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

デッドプール(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

アメコミスーパーヒーロー映画『X-MEN』シリーズの第8作目にして、不死身のアンチヒーロー・デッドプールの活躍を描いた『デッドプール』シリーズの第1作。

ミュータント改造手術により異形の存在へと姿を変えられたウェイド・ウィルソンは、自らを”デッドプール”と名乗り悪の組織への復讐を開始する。

○キャスト
ウェイド・ウィルソン/デッドプール…ライアン・レイノルズ(兼製作)。

製作総指揮はスタン・リー。本作でスタンはストリップバーのDJとしてカメオ出演している。

第22回 放送映画批評家協会賞において、最優秀コメディー賞を受賞!

レビューを書く前に、まずはアイルランドが生んだ反骨の歌姫、シネイド・オコナーさんに謹んで哀悼の意を捧げたいと思います。
特別彼女のファンだったという訳では無いのですが、それでも初めて「ナッシング・コンペアーズ・トゥー・ユー」のライブ映像を見た時は心底痺れた。怒りと悲しみを隠すことなく、赤裸々のパフォーマンスを持って衆人にその感情を伝えた彼女の勇気に、最大限の敬意を表したい。
終生、過酷な運命に翻弄され続けたシネイド。彼女の魂に安らぎが訪れますように。

ここから本作のレビュー。
『X-MEN』シリーズにデップーが登場したのはこれが初めてではない。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009)という作品の中で、ウルヴァリンの上位互換的な存在として登場しています。この時のデップーは目からビームが出るんですよね。カッケー!!

個人的には嫌いではないのだが、この『ウルZERO』はとにかく評価が低い💦特にデップーの扱いに関しては、コミックファンから非難轟轟の嵐だったとかなんとか。
という訳で、完全な仕切り直しとして制作/公開されたのが本作である。”世界一セクシーな男”ライアン・レイノルズが引き続きデップーを演じているものの、『ウルZERO』との関連性はゼロ。過去のシリーズ作品とは切り離された、全く新しいオリジンストーリーが展開してゆく。
前作『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)において世界線が修正されたので、デップーのオリジンが変化していても一応スジは通っているのか…?いやでもあれは1973年以降の歴史が変わっただけであって、それ以前から存在しているデップーには関係ないような気も…。うーん、よくわからん。
ともかく、独立作と言ってよいほど過去作との繋がりが薄い作品なので、X-MENビギナーでも全く問題なく楽しめます♪

本作における最高の美点は、デッドプールというキャラクターを余すことなく描き切ったところ。
スパイダーマンを遥かに凌ぐ口の軽さ、下品すぎる性格、グロ満載のアクション、惜しげもなく披露するメタネタの数々…。と、とにかく美味しすぎるキャラ属性が彼の魅力。
星の数ほどいるアメコミヒーローの中において、その特殊性で異彩を放つデップーだが、最大の特徴は自分が映画のキャラクターであることを認識している、ということ。
平気で第四の壁を越えて観客に語りかけてくるし、カメラや音響までも操ってしまう。まさにやりたい放題。『ウルZERO』でもその片鱗を示していたが、今作ではその特異な属性が存分に発揮されており、他のアメコミヒーロー映画とは一味も二味も違う作品に仕上がっている。
スタッフクレジットにまでおふざけを仕込んでくるという徹底ぶりには笑うしかない🤣

「マカヴォイ?スチュワート?時系列がわかんねーんだよ」とか「グリーンのスーツだけは着せないでくれ」とか、『X-MEN』シリーズやレイノルズの過去作を弄るメタネタが豊富に仕込まれているのも本作の楽しいポイントだが、注目すべきは”恵まれし子らの学園”を訪れたデップーが放った「なんでこんな広い学園に2人しか居ないんだよ!予算少ないのか?」という発言。
はい、予算少ないんですこの映画。

本作の製作費は約5,800万ドル。
十分な金が掛かっとるやないかい!!…そう思われるかも知れないが、現代ハリウッドアメコミヒーロー大作でこの予算は、異例といえるほど少ないんです。

以下、他作品との比較。
・前作『X-MEN:フューチャー&パスト』…2億ドル。
・腹違いの兄弟「MCU」が同年に公開した映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』…2億5,000万ドル。
・ライバル企業DCが同年に公開した映画『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』…2億5,000〜3億2,500万ドル。

とまぁこのように、シリーズ過去作や同年公開のアメコミ映画と比べて、その予算は4分の1くらい。
いかに本作が安く作られた映画なのか、お分かりいただけただろうか。
確かに、本作には低予算なのが透けて見える点が多々ある。恵まれし子らの学園の件もそうだし、クライマックスバトルの人件費節約感はなかなかのもの😅
そもそもライアン・レイノルズ以外はスター俳優がキャスティングされていないしね。

にも拘らず、全く安っぽい映画にはなっていないどころか、普通にゴージャスなアクション大作という印象を受ける映画に仕上がっているのは、本作のVFXが非常にハイクオリティだから。
オープニングロールから外連味たっぷりなハイウェイバトルまでの、アイデアが詰まりに詰まった一連のアクションがとにかく素晴らしい✨メイキングを見たのだが、マジでどこからがCGでどこまでが実写なのか区別がつかなかった。
全身金属男のコロッサスの実在感も見事で、まるで本当に存在しているかのよう。
本作におけるVFXのレベルは、ぶっちゃけDCやMCUをはるかに凌いでいると思います。
ちなみに、本作の監督を務めたティム・ミラーはCGアニメ制作会社ブラー・スタジオの創設者。今は鬼才デヴィッド・フィンチャーと組んで『ラブ、デス&ロボット』(2019〜)というアニメシリーズのプロデューサーを務めています。
このアニメシリーズは映像クリエイターの見本市のような作品で、最先端のCG技術がとにかく目白押し。アニメの進化を体感出来るので、是非鑑賞していただきたい。

スター俳優は出演していないものの、デッドプールの仲間たちは皆魅力的で好感が持てる。
ウェイドの恋人ヴァネッサやクソ真面目なメタルマンのコロッサス、シネイド・オコナー似のパンク娘ネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドなど、面白いキャラクターが揃っている。
特に好きなのはウェイドの親友ウィーゼル。ヌボーっとした風貌と歯に衣着せぬ物言いが良い味出してる。よく考えると全然役に立ってないんだけど、こういういるだけで主人公が安心できる友達ポジションって大事だよね。

味方チームは魅力的なのだが、敵側勢力は面白みに欠ける。地味だし能力もショボい。性格もよくある感じで新鮮味がない。
第一、ライバルであるフランシスの能力が完全にデッドプールの下位互換なのはどうかと。治癒能力vs無感覚じゃ、そりゃ治癒能力持ちが勝つよね。

また、キャラクターや演出の奇抜さとは裏腹に脚本はとっても保守的。めっちゃ真面目にしっかりとデッドプールのオリジンストーリーを描いている。
パワーを手に入れたが故に恋人を遠ざけなくてはならない、というのもスーパーヒーロー映画ではありがち。
”殺人者と娼婦の恋”というのは絶対にディズニー傘下で製作されているMCUには出来ない設定でそこにはオリジナリティを感じたが、最終的には普通のラブロマンスになっちゃったのは、なんというかもったいないと思った。
せっかくデップーという破天荒ヒーローを扱っているのだから、もっと闇鍋のような混沌とした物語が観たかったという気持ちも正直言うとある。
無茶苦茶な主人公が活躍するアメコミ映画といえばジム・キャリー主演の『マスク』(1994)がいの一番に思い浮かぶが、『マスク』のカオスさを超えることは出来ていなかった。映画としては『マスク』よりも本作の方が面白かったけどね。

容姿がめちゃくちゃに変化したという設定だったが、何故かこの表現がマイルドなのも気になる。過激な性描写やグロ描写はあるのに、なんでここは生易しくしたんだろう?
「死んでくれた方が世の為になる」とウィーゼルに言わせるほどに壊滅的な顔という設定なんだからそこはもっと過激に、それこそクローネンバーグ映画のフリークスくらいぐちゃぐちゃにしてほかった。
マーベル映画でそれは無理、ということだったらあえて顔は観客に見せないようにするとか、いっそのこと顔にモザイク掛けちゃうとか、もう一手工夫が欲しかった。

まぁグダグダ書いてきたけど、普通に楽しかった♪
今まで観てきた『X-MEN』シリーズでは間違いなくこれが一番好き!
5,800万ドルの製作費に対し、7億8,000万ドル以上の興行収入を叩き出した大ヒット映画。それももっともな、めっちゃご機嫌な作品。アメコミに興味がないという人でもきっと楽しめる、そんな一本でした😆
kkkのk太郎

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