Hondaカット

セッションのHondaカットのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.5
90点。凄まじい映画だった。ドラムの鬼教師と生徒、2人のエゴのぶつかり合いはまさに格闘技。ラストは鳥肌。3億円そこらとも言われる非常に低予算の作品でありながら(日本の大作映画の半分くらいの制作費)見応え十分で、アメリカの映画産業の規模や層の厚さを感じずにはいられなかった。

中でもこれぞ「映画のキャラクター」というべきJ・K・シモンズ演じる教師は最高の領域だと思う。サイコな教師でありながら奥行きがあるというキャラクターを決して紋切り型になることなく演じ分けていた。行動が、わざと、だったり、時に純粋な思いだったり、その線引きが自分自身ですらできてない、興味深い人物像。大袈裟な顔芸ではなく顔力とでもいうべきものはズルい気もしたけど。

そして純粋な2人の強烈な想い(ある意味でとても2人とも純粋なのだ)がぶつかり合う様。どれも説明口調にならず画と気持ちで表現されてる様が映画というメディアならではで、終始緊迫感に息を飲んだ。

とりわけ白眉なラストの演奏シーケンス(その中での2人の想いのやりとり!目線!最高の芝居です)ではむしろ音楽を越えている、というか、その演奏自体を描こうとしていなくて、新しい映画の表現の為の「ジャズ」や「ドラム」な気もした。友情でも、勝ち負けでも、共感でも無い興奮がそこに立ちのぼってくる映画史に残るシーケンスだ。

何よりもその全てに説得力を持たす為の主人公のドラムのプレイ。元々バンドは趣味レベルでやってたらしいけど撮影前3週間の特訓であそこまで代役なしのカット(引いてる全身の画の多いこと)を演じられるのは、もはや信じられない。

あとご高名なミュージシャンとかが、この映画の欠点やリアリティの無さを指摘してるけど、どれも的はずれだと思う。だって映画だもの。映画というのは基本的には、誇張し、省略し、構築しなおして表現するもの。その中のどこかに普遍性を見いだしたり、置き換えたりして観れるものなので、リアルにあんな人いないよとか、授業の進め方が違うとか、音楽のジャンルが〜とか言っても意味ないと思う。

監督自身が若手(撮影時28歳!)の映画監督として認められたい!というパワーが主人公の同じ想いに憑依しているようで、それがこの作品を稀な傑作にしていると思う。しっかし、28歳で長篇初監督で、最後をあの終わり方ができるというのは並大抵のセンスではないですね。
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