完璧に飲み込まれた。完璧なシーンに息も唾も飲んだ。
ジャズドラムで有名になることを夢見て、名門音楽学校に入学したアンドリュー。友達も作らず、ドラムに没頭していた彼はフレッチャー教授の目にとまることとなる。夢がかなうチャンスだと思った彼だったが、フレッチャーはジャズの怪物であった。
アンドリューを取り巻く環境は、誰しも経験したことがあるはず。グループが和気あいあいと下世話な話をしている中、自分だけが蚊帳の外にいる感覚。だから感情移入しやすかった。彼はその溜まりに溜まったフラストレーションをドラムにぶつけることで発散しているので、彼には「ドラムしかない」という気持ちが伝わってくる。上手い。
フレッチャーを演じるJKシモンズ。助演を取っただけあって、圧倒的な迫力を画面からこれでもかと押し出してくる。存在している訳ではないのに、こっちまで萎縮してしまう。中学の頃通ってた塾のめっちゃ怖い塾長を思い出した。フレッチャーを思い出すと胃がキリキリすること請け負い。
この映画を音楽映画だと思ってはいけない。アンドリューとフレッチャーの魂の殴り合いの映画だ。フレッチャーの脅迫じみた焚き付けに、アンドリューは狂気に駆り立てられていく。倍テンポでドラムを叩く時の形相は、怒りで人を殺しかねないくらいの迫力がある。そしてラスト9分19秒、それらは一気に昇華する。
観終わったカップルが「サントラあったら欲しい」とか言ってたけど、これはそんな映画ではない。アンドリューとフレッチャーありきで成り立つ、爽快な暴力なのだから。
デイミアン・チャゼル監督、この映画の撮影中に交通事故に遭いながらも、翌日には現場復帰して現場指揮したらしい。凄まじい。
