Chappy

セッションのChappyのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.3
有名ジャズドラマーになって世間を見返したい名門音大生 vs 生徒たちを口汚く罵倒しながらドSなスパルタ指導を行う鬼教官のバトルムービー。体裁上は音楽映画だが、師弟モノのカンフー映画に近い。

鬼教官役、J.K.シモンズの過剰演技がとにかく最高。ドラムのテンポが違っただけでイスをブン投げ、精神的にも生徒たちを徹底的に追い詰めて行く。実は生徒思いなんだ…と思わせるシーンも幾つか出て来るのだが、これが巧妙な目眩ましで、やっぱりとんでもないクソ野郎だと最後に分かる。
そこが敵味方に分かれても、最後は星飛雄馬と一徹が親子愛で繋がった『巨人の星』と根本的に違うところ。この鬼教官のメソッドは何ら肯定できるものではないし、ハッキリ間違っているが、常軌を逸したスパルタで異常に伸びる才能があるのもまた事実。常識とか倫理を超えたところに異形の才能は現れる。そこが音楽の面白さであり、だからこそ本作は面白い。

ラストシーン、二人が凄まじい憎悪を交錯させる中で、音楽のチカラによって再び「師弟」に戻る。ああ、音楽ってイイネ!…と素直に大拍手したいが、何かが引っ掛かる。これって完全に二人だけの世界。自分は菊地成孔のように肥えたジャズ耳は持っていないが、音楽は生死を懸けたカンフーバトルとは違う。オーディエンスあってのものだろう。それ以前にこれはバンド演奏じゃなかったか?

そこで一歩引いて考えてみる。主人公が最後に叩くドラムソロは、果たして万人の心を打つものだったのか?そうでないなら、二人のバトルは壮大な茶番であり、救いようのない世界だ。だが、これもまた音楽の持つ魔性の成せる業。そう考えるとゾッとした。
監督の実体験に基づく脚本だと言うが、監督自身が相当歪んでいないと、こんなに一筋縄じゃない結末は描けないだろう。歪んだスパルタの結果、監督の性格を歪め、別な道・映画監督へと導いてくれた元指導者にも拍手を贈りたい。
Chappy

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