半兵衛

OL日記 濡れた札束の半兵衛のレビュー・感想・評価

OL日記 濡れた札束(1974年製作の映画)
3.8
実際に起こった横領事件を単に再現するのではなく、事件の加害者となった銀行員女性の生きざまを時系列をモザイクのようにバラバラにすることで主人公の心情が画面から浮かび上がる演出が圧巻。そしてそこからは戦後からの男性主導の社会に抑圧され自分なりの生き方が出来なくなってしまった女性の悲痛な叫びが伝わってきて、もしかしたら横領事件は彼女なりの社会への復讐だったのではと感じた。

いつもは純文学的な演出がちょっと鼻につく加藤彰の作風が、作風に結構ハマっていていた。

日活ロマンポルノにしては珍しくエロ要素が薄く絡みは殆んど主役の中島葵が担当、そしてそんな彼女が暗闇で行っている性行為が物悲しくドラマを彩る。そしていつもだったら絡みばかりやっているイメージの絵沢萠子や高橋明が真面目な役を演じて、ドラマに厚みを加える。

中島葵特有の幸薄そうな(失礼!)顔立ちとオーラが当時ハイミスと呼ばれていた婚期を逃した主人公のキャラクターとよく合っている、名作『浮雲』で高峰秀子を転落させ岡田茉莉子を死へ追いやった究極のダメ男を演じた森雅之の娘である中島が若いダメ男のため身も心も捧げてしまう役を演じるというのは何の因果か。

いくら社会を騒がせた人間でもそれに関わった人でも、普通に明日は訪れるし日常に埋没していくんだよというラストがクール。
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