ほーりー

吹けよ春風のほーりーのレビュー・感想・評価

吹けよ春風(1953年製作の映画)
4.1
素敵な黄色い車ッ♪形はいささか古いけど~♪

『醜聞《スキャンダル》』『石中先生行状記』と並んで、三船敏郎の歌声を聴くことができる珍しい逸品。

谷口千吉監督・黒澤明脚本によるオムニバスドラマ『吹けよ春風』は観る者を思わずほっこりさせるような内容で個人的に大好きな一本だ。

三船敏郎扮するタクシーの運転手が乗客たちの様々な人間模様をルームミラーごしに観るという構成になっている。

最初のお客は、岡田茉莉子と小泉博のカップル。喧嘩したりでイチャイチャしたりする内に早々と退場してしまい、当時既に主演級スターだった二人が顔見せ程度なので少々面食らった。

お次は可愛い子どもたち。生まれてこのかた一度も車に乗ったことがないので、初乗り運賃の区間だけでドライブしてくれと三船に懇願する。『マルクス兄弟オペラは踊る』の船内ギャグのようなシーンが見所。

その次の客は、雨の夜に乗せた家出娘。これを先日亡くなった青山京子が演じている。三船は彼女を家に帰そうと説得する。

次は日劇のステージを終えたばかりのミュージカルスター(演:越路吹雪)を乗せる。彼女と外苑周辺をドライブするシーンで前述の三船の歌(『黄色いリボン』の替え歌)が流れる。

このシーンがとっても明るく楽しくて好きだ。二人が歌いながら颯爽と外苑を走り抜け、周囲の人が思わず振り返るのが良い。

しかし楽しいお客さんだけでは時には困った客も乗車してくる。泥酔状態の藤原釜足と小林桂樹はタクシーに乗って早々に車内で暴れまわる(-_-;)

特に小林は俺の芸当を見せてやると、走っているタクシーの上で危険なスタントをやりはじめる。この曲芸は実際上にエノケンが酔っ払った時によくやる癖だったそうな。

さてその次の客は、小川虎之助と三好栄子の老夫婦。この夫婦の可哀想な境遇といい、それに対する三船の優しさといい、このエピソードがとっても泣かせる内容になっている。

で、次のエピソードが一番の問題客。怪優・三國連太郎によるオネエ言葉の自動車強盗!

三國のヤバい演技で度肝を抜かれた。ちなみにこのオカマ口調は三國の勝手なアドリブで、台詞を変えられてしまい後で黒澤明が怒ったとか怒らなかったとか。

そして最後に、中国から七年ぶりに復員してきた夫(演:山村聰)と迎いに来た妻(演:山根寿子)を乗せる。

長年の収容所生活で心が荒んでしまった山村は自分の顔を全然覚えていない我が子らと再会するのを躊躇する有り様。

やっとこさ自宅に着いて我が子らと対面する。この時の子どもたちの表情が絶妙でちょっとした緊張感がある。

……といったオムニバスドラマ。

原作は『リーダーズ・ダイジェスト』に掲載された記事をベースにしているが、実は採用されているのは山村聰のエピソードだけで、他は全て黒澤と谷口によるオリジナルだそうな。

困ったことにオリジナル部分の方が出来が良くて、最後の復員兵のくだりで急に失速してしまう。

根本的に三船の行動が最後までパッシブであることが問題だと思う。あくまでも傍観者としてこの夫婦に接するだけで特別な行動をしない故に間延びした印象を受けてしまう。

やはりここは運転席と後部座席の垣根を乗り越えて、彼らの人生に関わるような行動を起こせばもっと大団円で終わったのではないかと思う。

■映画 DATA==========================
監督:谷口千吉
脚本:黒澤明/谷口千吉
製作:田中友幸
音楽:芥川也寸志
撮影:飯村正
公開:1953年1月15日(日)
ほーりー

ほーりー