horahuki

赤い唇/闇の乙女のhorahukiのレビュー・感想・評価

赤い唇/闇の乙女(1971年製作の映画)
4.1
自身の「闇」を恐れるな!

夫の母親に挨拶に行く新婚夫婦。列車が止まって立ち往生。仕方なく立ち寄ったホテルで、絶対にママに合わせたくない夫と、絶対にママに挨拶したい妻のバトルが勃発!更には、夫婦喧嘩に乗じて奥様を寝取ろうと偶然居合わせた妙齢な伯爵夫人(吸血鬼)が謀略を練るエロティック吸血鬼映画。

奇想天外映画祭で明日(9月4日)から公開らしい。エリザベートバートリーをモデルにした伯爵夫人は、真偽は定かではないながらもレズビアン吸血鬼。ホテルで好みの女性を見つけたけど、夫が邪魔!お仲間の若い美女吸血鬼に命じて夫にハニートラップ→奥様にバラす→破局→寝取るという完璧プランを実行に移すわけです!これは確かに奇想天外!!

新婚2日目なのに、夫婦の会話からお互いに対する愛情不足を匂わせ、その帳尻合わせのようなSEXでスタートする本作は、夫も妻も自分のアイデンティティに向き合うための旅を描いたものとなっている。結婚の挨拶に向かうための列車が途中で止まったために道草を食うという展開そのものが、男女間での結婚という(当時の)社会的常識のレールから一歩外れて自身の内面を見つめ直す舞台としての印象を強くする。ホテルに誰も客がいないのも2人の関係性に主眼を置いているためでしょう。

何で夫くんは妻を母親に会わせたくないのかは是非本編を見て確認して欲しいのだけど、母親との電話を切った後に人が変わったかのように妻に暴力を働くようになるのは、電話の向こう側に自身のアイデンティティがあったからであり、それを妻に隠すため・自分でも認めたくないための弱さ故の拒否反応。そして奥様サイドはバートリーと良い感じになってくんだけど、それまでにもやたらと海に浮かぶ船を見つめるカットが挿入されることからも常識的な規範からの解放・自由を深層では求めていることがわかる。それはバートリーが偶然にホテルへとやってきたのではなく、奥様の心的深層が招いた存在であるということでもある。そしてタイトルが『闇の乙女(Daughters of Darkness)』であることからも、その先が光ではなく闇であるというのが悲しい…😭

印象的な赤の色彩は、もう一つのタイトル『赤い唇』からも色欲だけでなく暴力や加害行為を連想させ、そこに惹かれていく夫くんは、弱さの裏返しだけでなく、アイデンティティとして暴力性を備えているわけで、妻が白を羽織るのに対し、自分の部屋という内面空間では夫くんは赤のローブを羽織ったりと徹底されている。まるで視覚のフィルターのように赤のベールで覆うことによりそういった感情がキャラ・場を侵食していく様子を強調したり、青や黒に逆を纏わせたりと露骨すぎるほどに色彩演出を貫いている。同じ吸血鬼でも若い美女の方は男性器に見立てた窓のノブを使うことで、これまた露骨にエロスを醸し出したり、何かもうずっとエロい!🤣

夫くんと奥様の距離感、逃避感情、その真逆の感情による追い詰めをワンカットのパンの中に盛り込んだり、トラッキングを人物を跨いでバトンタッチだったりとカメラワークも楽しい!面白い作品でした👍
horahuki

horahuki