しの

アバター:ウェイ・オブ・ウォーターのしののレビュー・感想・評価

3.6
「ナヴィ族の役者を雇ってパンドラでロケして映画作ったの?」と言いたくなるほど映像の現実感は増している……というかもはやこれは「現実」だ。しかし、これをあと3本作ろうとしているのは正気とは思えないし、現時点では付き合うモチベーションもそこまで湧かないというのが正直なところ。

前作は虚構世界と現実世界が逆転していく話だったが、今回はもはや現実世界と虚構世界を行き来する感覚すらない。前作ラストで「ここを現実として生きるんだ」と決めたので、今回は本当にこの世界が「現実」になっている。するとどうなったか。「ナヴィ族でも流石にこのアクションはできないだろうからここはワイヤーだろうな」とか、「いくらパンドラの生き物とはいえこんなに長い時間背中に乗って会話できないだろうしセットだろうな」みたいな思考が浮かんできて脳がバグる瞬間がかなりあった。ひとつ象徴的なところでいうと、途中で人間が画面に出てくるとそちらの方が「異物」に感じてしまって、自分でも割とビックリした。つまり、架空世界であるはずのパンドラで普通にカメラを回したように見える、という物凄いことをやっているのだ。

しかし、そうなってくるともはや「物語もアクションもそこまで面白くないパンドラ産の実写映画」という印象になってしまうのが皮肉というか何というか……。

今回はサリー一家の話になり、子どもたちもフィーチャーされてはいる。しかしながら、結局「人間はクソ! スピリチュアル先住民サイコー!」な安直さは(少なくとも本作だけ観ると)前作とほぼ変わらず。さらに冒頭の1時間で森を舞台に前作の内容を繰り返す親切設計も加わり、参ってしまった。正直、2幕目の「海の生活に慣れるぞ〜」パートが一番楽しい。物語がない部分が一番見応えと没入感があって楽しいので、正しくアトラクション映画と言っていいが、ならばそこに192分もかけるのはどうなのか。

またストーリーテリングは前作に引き続き(あるいはそれ以上に)不器用な部分がある。たとえば、「子どもが言うこと聞かなくてどっか行っちゃった!」で展開を作るのを4, 5回くらいやっていて流石に勘弁してくれと思った。その割に主人公の家父長制的な態度について最後までナアナアで、子どもの主体や自立が(これ一作では)あまり描けてると思えないし。結局、主人公に対する「お前何してくれとんねん」感は前作より増していて、そのお陰でラストカットのキマりっぷりも前作ほどではなく、上滑り感があるのが厳しいところ。

技術的なところでいえば、まず3Dは前作と同レベルの安定感で飛躍的な何かはない。しかしやはり凡百のそれとは一線を画するものだと再認識できた。飛び出すための3Dではなく、入り込むための3Dなのだ。一方、今作ならではの目玉技術であるHFRは、確かに海中のシーンでかなり効果を発揮していた。無数の生き物が蠢く様や、水中で揺らぐ動きなどを滑らかに映してくれるので、本当に「潜り込んだ」感覚を与えてくれる。しかし、逆に言うとそれ以外はむしろ切り替えによるノイズが大きかった。切り替えるタイミングもイマイチ意図がわからず、シーンによってはゲーム映像のように見えてしまう所もあり。これなら海中だけを48fpsにするか、全編をどちらかに統一した方が良かったかもしれない。

本作を観て、キャメロンはアバターというシリーズによって史上最大の架空世界を史上最高の現実感で現出させようとしているのだなと分かった。マジの創造主になろうとしている(本作冒頭なんてSWを思い出した)。ただ、ここから2028年までに渡りそこに着いて行きたいと思える牽引力があったかというと、どうなのか。本作でもう少しこの先のビジョンみたいなものを提示してくれると思ったのだが、そこでお出しされたのが前作とほぼ似たような物語と申し訳程度の布石となると、ちょっと厳しい。となると、「すごいんだけど結果的にすごくなく見える」という、こんなに酔狂な映像実験に192分も費やして立ち会おうとする人がどれだけいるのかは気になる。脳をバグらせたい人は一見の価値はあるだろう。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】映像が凄すぎて何も凄くない?『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は流行るのか?
https://youtu.be/ZNPYU0lr6h0
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