津軽系こけし

ボス・ベイビーの津軽系こけしのレビュー・感想・評価

ボス・ベイビー(2017年製作の映画)
4.2
愛は冒険だ


【原作からは逸脱】

著マーラフレイジーの絵本「赤ちゃん社長がやってきた」が原作。こちらの絵本は子育てに苦労する親の目線から、わがままな赤ん坊を会社の社長に見立てるシニカルな寓話。それと比べ、今作「ボスベイビー」は世界観を拡大し冒険活劇に変じるなど、映画仕立てのスーパー改変が施されている。
主人公も、親から子供へとシフトしていて、子供がいかにわがままを克服するかという成長劇に焦点が当てられている。バディモノとしてもすごくまとまっているし、ドイツ表現主義あたりの怪奇映画チックさもあったりで、映像的にも内容的にも楽しめるアニメ映画。

【60年代のベビーブーム】

劇伴にEW&Fの「セプテンバー」があったり、劇中にはエルビスプレスリーを真似した若者が登場したり、メリーポピンズを思わせるアクションがあったり、かなり50〜70年代的なネタが目立つ。監督の生まれが64年のため、この時代のコンテンツからもろに影響を受けたことが起因しているのかも?
ちょうどその時代はアメリカのベビーブームの到来時期でもあるが…?果たして関連はあるのだろうか

【愛情への嫉妬】

今作のもうひとつのテーマが、愛情への嫉妬である。主人公の少年は今作では赤ちゃんの出現による親の関心の移動に苦悩する。兄にとって弟の出現とは、財の共有化と自分だけの世界が崩壊することを意味する。当然最初は嫉妬から拒絶しようとするのだが、最終的には「与え合う愛」の本質に伴って弟を受容する着地となる。
それと対比に描かれるのが今回のヴィランたるフランシス・フランシスである。フランシスは嫉妬に狂ったキャラクターで、弟を拒絶する主人公の延長にいる存在だ。シナリオでは、嫉妬から自分の敵となる存在の失墜を目論むのだが、実は嫉妬だけではなくて愛情の不足を抱えたキャラクターでもある。

彼はトランスジェンダーの父親に育てられ、その家に生まれた己の境遇を哀れむような発言をしている。あの父親だから、おそらくちゃんとした愛情を注いでもらえなかったのでは?
終盤にて、子犬に関心を持ったモブの母親が、子供を無視して歩みを進めるシーンがある。まさにあれは、フランシス・フランシスというキャラクターのバックボーンそのものだと思う。そして、このヴィラン自体が子供への関心が軽薄化する現代に警鐘を鳴らしているようにも思えた。

【こじつけなまとめ】

吹き替えで鑑賞したのですが、ボスベイビー演じるムロツヨシが多才で驚きました。

私は主人公と同様に一人っ子だったので、たしかにわがままな節もあります。別々の靴下を履くとこなんかまさに私です。人と何かを分かち合うことは幾たびかありましたが、弟が出現した時にあんな風に振る舞えるか自信がありませんね。
あの想像力と優しさは見習いたい。
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