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この国の空のiryuのレビュー・感想・評価

この国の空(2015年製作の映画)
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京都国際映画祭@祇園会館にて

誰も死なない戦争映画である。舞台はアジア・太平洋戦争末期の東京。毎日空襲警報が鳴り、どんどん人々が疎開していく。しかし、人の死ぬ描写はひとつもなく、死体も全く出てこない。10月の京都国際映画祭でこの映画が流れたとき、監督による舞台挨拶があった。そこで監督が「300万人が戦争で死んだが、8000万人は生きている。その8000万を描きたかった」と言った。その言葉通り戦時下の日常が淡々と流れていく。しかし、そこには濃厚に戦争の匂いが漂っている。
長谷川博己演じる市毛は妻子持ちの男だ。なので、この映画の恋は不倫の恋である。だがどろどろした雰囲気はなく、かといって爽やかでも純愛でもなく、ただリアルな生々しさがある。8000万人の中の1人の敗戦までの日常をリアルに描いた映画だ。
二階堂ふみが可愛すぎないのがいい。堀北真希では悲劇のヒロインになってしまい、このリアルさは成り立たない。ザ・たぬき顔でなければいけない。不倫はダメだとか戦争はダメだとか特攻万歳とか余計なことを盛り込まないで、人間模様に焦点を当てているのがとてもいい。一女性のリアルな日常をきちんと描いたからこそ、残り7999万9999人の戦争に思いをいたすことが出来るのである。
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