サッカー好きの上野

この国の空のサッカー好きの上野のレビュー・感想・評価

この国の空(2015年製作の映画)
4.0
【戦時下の日常】
監督自身が言っているように、これはホームドラマである。
すじとは関係なかったけど、工藤と富田の姉妹喧嘩シーンは
実は両者にとって難しい仕事だったそうだ。

特に夫と子供を空襲で失った姉に冷たく当たる妹として
娘に近づくなと言いながら半ば公認していた母親として
特に後者ついて工藤はその矛盾を直接監督に聞きに言ったそうだ。

アメリカで経験を積んだ工藤らしい(笑)

しかしそうした難しい役柄を工藤は見事に演じきった。

娘が女性として魅力的になるほど、
またそれに惹かれる男の存在を近くに感じることへの
おそれと期待、そう言っていいのかわからないが
川で体を吹くシーン
工藤が「私にって一番大事なシーン」があるが

このシーンで全て持って行ってしまった感じだ。

富田の焼け出されて精神的に少しおかしくなっている感じも
その狂気性をおもいっきり出すのでなくて
言葉の端々に出してくるのも見事だった。

だからその2人の喧嘩シーンが難しかったというのもわかってもらえると思う。


谷崎潤一郎賞を受賞した高井有一の同名の原作。
しかし荒井監督がこの作品を見たのが30年前。
もともと脚本家である荒井、まずはホンを書いた。
それをみた根岸吉太郎が「ホンはいいけど、誰がこんな映画見るの」だったそうだ。

たしかに劇場はガラガラ(笑)
中には「あー眠かった」なんでいう客も!
僕はこの人は何を見ていたのだろうと思ってしまった。


【工藤夕貴と富田靖子の共演】

ではこの映画を見た理由は

工藤夕貴と富田靖子が姉妹役としての共演と

とくに工藤夕貴さんが戦争映画にでることで24年前のことを思い出したからだ。

1991年、僕の家に1つの連絡があった。

自動車修理業をしていた作業場兼住宅の我が家を映画撮影に使いということだった。
理由は下町らしい自動車工場を探していたら我が家がヒットしたという。

映画の名前は『戦争と青春』
監督は今井正。
主演は工藤夕貴。

今井監督は過去に『青い山脈』『橋のない川』そして『ひめゆりの塔』を撮った社会派監督。
『ひめゆりの塔』は自身がリメイクしたがその後、胃がんにかかるなど健康的な問題で
ほぼ10年間映画界から遠ざかっていたが
『戦争と青春』で久しぶりにメガホンをとった。
しかしこの映画の全国をキャンペーン中に倒れ帰らぬ人になってしまった。
だからこの作品が遺作となった。

工藤夕貴はアイドルとしてデビューしたが 『台風クラブ』で女優として開花した。
『戦争と青春』では一人二役、現代の自動車修理業の娘と伯母の戦争時代の役を演じた。
伯母役では東京大空襲で娘を亡くす演じている。
本役はあくまで女子高生の「ゆかり」 であって伯母の「咲子」としては早すぎたかもしれない。

ウチで行われた撮影は現代のシーンで
毎日、監督と大勢のスタッフ、
そして工藤さん、共演の井川比佐志さん、藤田弓子さんが来られた。
自宅の一室を女性陣の控室として提供し
工藤さんや藤田さんはそこで着替えやメイクをしていた。
すごくドキドキした(笑)

とにかく毎日が非日常。

さすがに俳優さんや監督さんに声をかけることはできなかったけど、
早くからスタンバイしにくるスタッフさんに、いろんな質問をしたし、

ずっと見ていて、
えー照明ってこう当てるんだ、えーレフ板ってこうした角度つけるんだ、
音声はこんなふうに録るんだって楽しくてしょうがなかった。

ただ一番感動したのが工藤さんの演技の入り方。
今井監督が「よーい」というと
工藤さんはまばたきを2回する。
するとそれまでは違ったオーラがグッと出て役に入る。

ベテランの井川さんや藤田さんはそのまま演技に入るのに
工藤さんの儀式のような瞬きに
ああ、こういった工夫をしているだとすごく感心した。


『戦争と青春』が映画としては傑作とはいえなかった。
工藤も女子高生役はともかく
母親役としては力量が足りなかった。

しかし今回の『この国の空』こそ『戦争と青春』がテーマの作品。
計らず工藤の2度めのチャレンジを見ることができた。

そして『さびしんぼう』のレコードまで買った富田靖子との共演。

過去と現在が一瞬つながった、僕にとっての特別な映画でした。

【追記】

二階堂さん、長谷川さんすいません。
全然触れてないけど、
悪かったわけではありませんから(笑)

長谷川博己はこの前見た『進撃の巨人 ATTAC on TITAN』と違った演技が良かったです。