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ヴェラの祈りのyumaのレビュー・感想・評価

ヴェラの祈り(2007年製作の映画)
4.5
 改)原作ウィリアム・サロヤン「どこかで笑っている」未読。
舞台に現れた銃は必ず発射されねばならない、と言ったとはチェーホフである。
 この映像を撮るために用意されたストーリーである、とすら思えてしまう程に素晴らしい絵の数々に我々はただ圧倒される。しかし、また一方で我々は突き放される。ヴェラの思想が理解できないからだ。恐らくこれは、ロシアという国や正教会への知識の欠落から来るものではないだろう。「裁かれるは...」はこれらがキーワードではあったが、今作に限っては決してそうではない。何故なら、アレックス自身がヴェラに対し何一つ理解できていないのであり、カメラもそのアレックスに寄り添っているからだ。聖書の一節、ダヴィンチの受胎告知のパズル、回想シーン、枯れまた流れ出す小川も、補完するものではあっても決して核心に触れるものではない。我々が理解し得るものは、何処まで問い詰めたところでアレックスの不理解なのだ。
 インタビューによると「2作目のジンクス」を監督自身も感じていたようだが、それを微塵も感じさせない出来であり、最早貫禄すらある。また映像、脚本だけでなく役者も非常に良かった。コンスタンチン・ラブロネンコは「父、帰る」から続けての配役も良く演じ、当初は構想していなかった子役たちも非常に良く、スパイスとして機能していた。しかし間違いなく1番輝いていたのはマリア・ボネヴィーだ。所属劇場の許可が降りるまで1年間、監督が待ったという甲斐有り余る演技、存在感であった。
 他の映画に比べれば確かに160分は長いかもしれないが(そもそも長いというのは何一つ批判の論拠になり得ないのだが)、同じくその内容(脚本、演者、構図)は比べるまでもない。これだけの時間、これだけの映像に浸らせてくれた監督に我々は最大の謝意を送るべきである。
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