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エレナの惑いのleylaのレビュー・感想・評価

エレナの惑い(2011年製作の映画)
4.2
静かに淡々と映し出される日常。削ぎ落とされた会話。冷めた空気が緊張感を呼ぶ。
映像が言葉を語るようで、目が離せなくなる。

8分近く、会話もなく、部屋の中と主人公の暮らしぶりが映し出されるだけの冒頭。

カラスの鳴き声、電話の音、カーテンを閉める音、食器の音、静かな映像の中で日常の音が響き渡る。

主人公のエレナは資産家の夫と再婚し、妻として従順につくす。ロシアの男性優位の社会的背景があるようだ。そこに愛は感じられない。
前の夫との間にできた息子は継父の資産をあてにしているが、夫は拒否する。
やがて病に倒れた夫を前に、エレナの心に芽生えたものは…
観る者に委ねられるエンディング。

人から見たらダメな息子や娘でも親にとっては可愛い。母性や父性、血のつながりは善悪を歪めてしまうものなのかも。
だから、普通に見える人でも、ふと罪を犯す瞬間があるんだろうなと思った。
人間の本能の怖さ、醜さを見せつけられた気がする。

「世間の概念や俗人の肉体に悪が宿っている」
ドストエフスキー(特典映像の監督の言葉より)

交互に映し出されるブルジョワと低所得者の暮らし、亡き夫のベッドで眠る赤ん坊、ケンカを追う手持ちカメラのブレた映像など、カメラが冷酷なまなざしのようだった。

人間の存在意義をえぐるようなズビャギンツェフ監督の作品。

「父、帰る」を20年近く前に観て、その時は特別な映画とは思わなかったのに、その後時々思い出す瞬間があり、それがなぜなのか不思議だった。
たぶん、このヒリヒリとえぐられる感覚が脳のどこかにこびりつくんではないかと今作を観て思った。
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