アズマロルヴァケル

壊れた心のアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

壊れた心(2014年製作の映画)
3.5
芸術路線かつ刺激的なノワール

・感想

ざっと観たのですが、ストーリーとして丸く収まってる気がしたのですが、結構な芸術路線を貫いているのでスタイリッシュに仕上がっていました。と同時にフィリピン映画らしい沸々とした情緒が味わえる映画でした。

映画は冒頭のキャスト紹介や意味深なEDを除けば60分程で終わるのですが、意外にも中身が濃いもので……

まず、映画自体は台詞はあるものの若干フィリピン人の役者さんが意味深なことを言っていたり、音声機器無しで浅野忠信らの音声が流れる感じで、台詞はある程度は機能しておらず、強いて言えば音声はあるまのの映画自体の機能は無声映画として働いている様子でした。なので台詞は聞こえるのですが、DVDではある程度全快ぐらいにしないと聞こえない。

そして、描写も可愛らしい描写もあればフィリピンのお国柄が伺えそうな描写もありました。例えば、殺し屋が家で小豚とウサギを飼っている健気なところもあれば、透明水彩で仰向けになっている人の上に豚とウサギが乗っている絵を描いていてとっても妙に思えたり、またあるシーンでは男性と娼婦がバロットという孵化直前の有精卵をゆで卵にしたものを男性が食べながら二人がキスをするのですが、そのバロットに異物が混入したのか途中で吐き出しちゃう場面があってなかなか生々しい。


でも、何といってもこの映画の象徴的なシーンなのは殺し屋が馬の覆面をしていて、娼婦が黒い羽と白いドレス姿というカオスな格好でふたりが遊園地の簡易的な観覧車の周辺を歩いていて、実に幻想的でシュール。混沌さはあるけど理想と現実が織り混ざったようで画期的。

ただ、即興で短期間の撮影でこの映画を完成させたのはある意味素晴らしいが、展開が結構なほど唐突で途中でついていけなくなりました。例えばさっきの遊園地でふたりがひとときを過ごすシーンかと思いきや殺し屋が感情を高ぶらせてドラムを叩くシーンに切り替わったり、殺し屋が娼婦の遺体を墓地に埋葬したあと嘆いたあとに急にラストシーンになったりと編集に違和感はあった。具体的には漫画を見ようと思ったらページ破れていて飛び飛びで見れなかった感じ。

他に敢えて言うならば、EDでさっきのカオスな格好をしたふたりが路地を歩いていたりとか、エンドロールで殺し屋、或いは第三者が上半身裸で馬の覆面を着けてギターを持って徘徊しているところは結構意味深。音楽も相まって独特な世界観が伺える映画でした。