くじら

草原の実験のくじらのネタバレレビュー・内容・結末

草原の実験(2014年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

 前編音声なし、言葉で伝えるような表現がほぼない映画だった。草原と青空と、登りまた沈む太陽と嵐という美しい情景と、そこで暮らす美しい少女の日常、そして三角関係を見ていたと思っていたら突然の結末に驚いてしまった。

あらすじ
 父親と暮らす娘。毎朝父を道の分岐点まで送り、帰りは馬を持つ青年に乗せてもらっていた。また車の故障で立ち寄った金髪の青年と少し親しくなる。
 娘の平穏な日は父がある日狂ったように体調を悪くして帰ってきてから狂い始めてしまう。その夜、雨の中軍人たちがやってきて、おそらくガイガーカウンターで放射線量を測り、箱の中の何かが強く反応を示す。また父親自身も。(おそらく被曝によって)体調を悪くした父のため銃で馬の青年を呼び、彼が呼んだ軍医が父を連れて行く。馬の青年が娘を抱きしめ、それを見ていた金髪の青年が喧嘩し、娘に水をかけられ止められる。
 戻ってきた父に正装させ、家の近くの木のそばで景色を見る。娘が手紙?を持って戻ると既に父は亡くなっていた。娘は父を埋め、赤い星の飾りを作って立てる。
 娘は一人荷物をまとめて車に乗り、父を乗せて行ったいつもの道を進むが、いつも降ろされる分岐点でガソリンが尽きてしまう。娘が歩き始めると、その先は有刺鉄線が張り巡らされていた。(軍施設?)娘が家に戻ると、馬の少年(この時はラクダと車を持ってきてた)とその家族が家に。娘に首飾りをかけていく(結婚の約束?)
 娘は髪を切り、そこへ金髪の青年がやってくる。娘が髪を切り金髪の青年と一緒にいるのを見た馬の青年がサイドカー付きのバイクをふかす。金髪の青年はバク転しながらサイドカーに乗り、途中でサイドカーを外されバイクで何度も轢かれかける。金髪の青年は歩いて戻り、地面に倒れ、雨に降られる。近くで雷が落ちた場所が娘の家の近くの木だった。娘の隣で眠りにつく金髪の青年。二人の仲を示すように揺れる洗濯物。二人は木の側であやとりをして過ごす。その時少し遠くで衝撃とキノコ雲が。逃げる馬たち。馬の少年はバイクでキノコ雲に向かっていく。娘と金髪の青年は手を繋いで飲み込まれて行く。美しかった草原も静かな日々を送ってきた家も、全てが一瞬にしてなくなってしまう。ただ太陽だけが変わらず沈んでいく。

感想
 何も知らずに見ていたので、声なしで進行して行く日常の映画かと思っていたら、最後に今まで映画で見てきた全て、美しい景色も娘たちの暮らしも何もかもが消し飛んでしまってしばらく呆然としてしまった。父親が飛行機を操縦させてもらっていたり、娘を仕事場まで連れて行かないことだったり、所々軍に関係していることを示唆した描写を感じたが、父親にガイガーカウンターが反応したシーンからじわじわ迫り来る不安を感じてたら最後…。父親が持っていた放射性物質のものは何で、どうして父親はそれを家に持って帰って来たのかがよく分からなかった。実験を知って阻止したかったのか…。
 娘が父の仕事荷物をまとめるところが好き。車で出かけるのに荷物が小さいところ、少ない荷物の中で本が2冊入っているところも。父が死んでしまった娘には選択肢が少なく、それを安易に馬の青年に委ねたりしなかったのは、彼女が芯が強い女性なのかなと思った。
 娘と金髪の青年の交流が可愛らしくてよかった。最初の出会いは双眼鏡越し、青年のカメラ、映写機、車のミラー、窓から光の反射、雷で燃える木など、二人の間の交流は煌めいていて楽しい描写で好き。
 馬の青年は金持ちなんか…?何してるんだろう…娘の父が死んだ後、娘を心配する気持ちも結婚したいという気持ちもあったんだろうけど、人の気持ちを聞かない行動はただの独りよがりですね。
 とにかく美しい景色と、美しい音楽と、美しい少女がいたこと全てが無くなってしまったことが悲しい。この映画がロシア製作のものであることを、ロシアによるウクライナ侵攻が行われている今見ると考えさせられる。ロシアの人々はこれを見て何を思うのだろう。
くじら

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