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ネオ チンピラ 鉄砲玉ぴゅ~のMASHのレビュー・感想・評価

4.0
哀川翔の初主演作。そして東映のオリジナルビデオ、通称Vシネの記念すべき第一弾として予定されていた作品。結局そうはならなかったが、この作品が以後のVシネだけでなくヤクザ映画に多大な影響を与えたことは確かだろう。そして、哀川翔の俳優としての魅力が詰まった作品でもある。

うだつの上がらない下っ端ヤクザの順公は、色々あって鉄砲玉を命じられてしまう。男らしいヤクザへの憧れと現実から逃げ出したいという思いの間で揺れ動く順公。そんな主人公を演じる哀川翔。彼の演技は決してうまいとは言えないが、哀愁漂う雰囲気や表情、その仕草は順公というキャラに実在感を与え、この映画における最大の魅力になっているのだ。

ただ、かなり変わった映画でもある。まずその演出。とにかく唐突にへんてこな演出を入れてくる。歌が流れたと思ったら銃撃音と共に突然止まり、何事もなかったかのように再生される。しかも銃撃音だけで誰かが撃たれたわけではないという。そういった変わった演出が、かなり荒削りの状態で映画にねじ込まれている。

また、ヒロインである青山知可子演じる夢子。意味不明な言動を繰り返し主人公を困らせる存在。演技が微妙なこともあって最初は「何これ?」と思って見ていたが、主人公に襲いかかる恐ろしい現実から逃げ込む先、つまり無垢な夢の象徴として映画の中で徐々に機能していく。これまた荒削りではあるのだが。

Vシネの「何か違うことをしよう」という意気込みが良くも悪くも全面に出ている。だが、それらが映画をメチャクチャにすることなく、そこにちゃんと一貫したテーマやビジョンを感じられる。男らしさへの強い憧れと弱い自分を受け入れて欲しいという思いの狭間で苦しむ主人公の姿が、常にこの映画の中心にあるのだ。

何度も言うが荒削りな部分が多く、映画としてのクオリティは高いとは言えない。だが、ヤクザ映画から切り離せない”男らしさ”に対し、この映画はユニークな視点で切り返している。ヤクザ映画の再定義を図った挑戦的な作品と言える。そして、この映画での哀川翔の存在がその象徴となったのだ。続編があるらしいが、このラストを考えると観たいような観たくないような…
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