サマセット7

ズートピアのサマセット7のレビュー・感想・評価

ズートピア(2016年製作の映画)
4.5
ウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオによる55作目の長編アニメーション映画作品。
監督は「シュガーラッシュ」のリッチ・ムーアと、「ボルト」「塔の上のラプンツェル」のバイロン・ハワード。

[あらすじ]
肉食動物と草食動物が共存して暮らす、夢の大都会、ズートピア。
田舎から警察官になるべく意気揚々とズートピア入りしたウサギのジュディ・ホップスであったが、着任早々、種族による先入観から水牛のボゴ署長に冷遇され、駐車違反の取締を命じられる。
一方、街では肉食動物のみが14頭、誘拐され行方不明になる事件が発生していた。
やがてジュディは、行方不明となったカワウソの捜索を48時間以内に成功しないとクビになる危機に陥り、キツネで詐欺師のニックと共に奔走するが…。

[情報]
ピクサーとの合併後、3Dアニメーションを進化させ、「アナ雪」にて新たな黄金期に入ったディズニーアニメーションスタジオが、総力を上げて製作し、2016年に発表した長編アニメーション作品。

製作総指揮ジョン・ラセターを中心に、監督2名、脚本7名に、それぞれ当時のアニメーション界を代表する面々を招き、時間をかけてストーリーや設定を練り上げた。

ディズニー伝統の、擬人化された動物たちの世界を描きつつ、多様性の肯定、差別や偏見のリアルな有様といった、現代的なテーマを明確に織り込んだ。

メインストーリーは、ウサギの警官ジュディとキツネの詐欺師ニックのコンビが、多種多様な動物たちの暮らす大都市を舞台に、連続誘拐事件の謎を解く、というもの。
ジャンルはバディ刑事ものアクション。
ミステリー、社会派ドラマ、コメディの要素も含む。

今作は、10年代のディズニー作品の中でも最高級の評価を受けている。
批評家、一般層共に広く支持されている作品である。
アカデミー賞長編アニメーション賞受賞。
1億5000万ドルの予算で作られ、10億2000万ドル超の大ヒットとなった。

[見どころ]
とにかく魅力的な主役コンビのキャラクターと「演技」!!
同じく心を掴んで離さない、最高レベルのアニメーションで描かれる、魅力的なズートピアの情景の数々!!!
先が気になるストーリーとテーマ性が、完全に一致した、完成度の高い脚本。
動物のステレオタイプをネタにした、可笑しいネタの数々!!
映画オマージュもたくさん!
「偏見」というものの根深さと、多様性の素晴らしさを、これ以上なく表現した深いテーマ性。
シャキーラによるテーマ曲が劇中歌として流れるラストまで、完璧!!

[感想]
最高!!!
ディズニーのアニメ作品の中では現時点で1番好きだ!

好きなところを挙げるとキリがないのだが。
あえて1つ挙げるなら、主役コンビのキャラクターになる。
バディもので、バディのキャラが良くないと話にならないが、今作では満点だ。

ウサギのジュディは、あらゆる点で観客の共感を呼ぶキャラクターになっている。
何しろ前向きで、はじめての大都会において、押し寄せる差別と偏見に、簡単には屈しないのがいい。
だからこそ、俊敏さを活かして活躍するシーンは誇らしく、失敗してしまうシーンは、彼女であっても!!!と衝撃を受け、立ち直るシーンが胸に響く。
現代におけるディズニーヒロインはかくあるべし、ということだろう。

一方のキツネのニックは、詐欺師であり、狡知に長けたキャラクター。
もうその時点で好きだ。
彼は人々の先入観という現実を受け入れてしまい、キツネはズルい、という偏見を助長する行動を取る。
そんな彼が、ジュディとの出会いに影響されて、というあたりは、定番の流れだが、感動的だ。
底にある優しさ、軽口、素直でない態度など、とても良い。

この2人の会話の応酬こそが、今作の魅力の多くを占める。
そして、2人の関係性の変化は、今作のテーマとも有機的に結びついている。
実に上手くできている。

ズートピアというタイトル通り、大都市ズートピアは、今作のもう1人の主役と言って良い。
多様性って素晴らしい、というメッセージは、この都市の描写の与える多幸感によってもたらされている。
ジュディがはじめて都市を歩くシーンで見られる、小動物と大型動物が入り混じりつつ共存することで生まれる活力!!

肝心の誘拐事件も、テーマと密接に結びついている。
単純にタイムリミットつきの刑事ドラマとしても良くできているあたり隙がない。
アクションシーンも動物ものならではのものになっており、工夫が見える。

伏線回収や頻出するオマージュに言及し出すとキリがない。
48時間をはじめ、アナ雪、ゴッドファーザー、帝国の逆襲、ブレイキングバッドなど、ニヤリとできるシーン満載だ。

動物ものだけあって、動物関連のユーモアも多い。
特に面白いのはナマケモノのお役所仕事。
表情の変化が楽しい。

シャキーラのテーマ曲をはじめ音楽もよい。
ラストのオチまで完璧だ。

[テーマ考]
今作は、差別と偏見、というテーマを、動物たちの寓話を通して描いている。

偏見の対象となる人もまた、別の人に偏見を抱いている、という構造は、この問題の複雑さを露わにする。

肉食動物と草食動物、キツネ差別、小動物への侮り、マジョリティとマイノリティなどなど、今作に登場する差別や偏見は、むろん、いずれもが、現実の投影である。
理想郷ズートピアは多様性の国アメリカの理想そのものである。
そのアメリカに、未だに根強く残る差別と偏見のもたらすものを、今作は提示する。

物事を分類し、思考を単純化するのは、瞬時に逃走か闘争か決める必要のあった原始時代以来備わった、人間の脳の生存のための仕組みである。
肉食獣と出会った時、直ちに危険だと判断できないと、生死に関わる。
こうした「先入観」とかバイアスの結果、「〇〇系の人種は粗暴」といった、事実と異なる偏見を生む。
ある個人の偏見は、容易に周囲の人間に伝播する。
多数派が同じ偏見を抱くと、同調圧力によりさらに偏見が補強される。
この手のことは、現在進行形で世界中に存在する。
人間の基本的な脳の仕組みに由来するだけに、性質が悪い。

ではどうするか。
今作のジュディを見よ!その言葉を聞こう!
今作はとても大事なことを伝える映画だ。

[まとめ]
差別と偏見というテーマを動物たちが共存する大都市という形で、これ以上なく表現した、10年代ディズニーアニメ屈指の傑作。

今作を語る上で外せない点がもう一つある。
コンサートの虎だ!
あの動き!!最高!!!