イルーナ

ズートピアのイルーナのネタバレレビュー・内容・結末

ズートピア(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

【南部の唄のリベンジ】

ディズニー創立100周年記念作『ウィッシュ』宣伝のための金曜ロードショーのディズニー特集もついに最終日。
満を持して登場したのは『ズートピア』。
この作品は公開当時「ズートピアはいいぞ」と大絶賛の嵐でしたが、私はこれが初見。
ウサギのとキツネのコンビという、ディズニー最大の黒歴史『南部の唄』を彷彿とさせる組み合わせ。
本作はそれのリベンジという意図もあったのかもしれません。

田舎のニンジン農家出身のウサギのジュディは、ウサギ初の警察官になるべく努力の末に警察学校を首席で卒業。
しかし動物たちの楽園「ズートピア」に上京すると、同僚は屈強な動物ばかりで冷遇されまくり。
が、行方不明事件を捜査するために、街の事情に詳しいキツネの詐欺師ニックと組むことに。

まず、あらゆる動物たちが平等に暮らすズートピアの作りこみは圧巻!
例を挙げると、乾燥地区、寒冷地区、身体の小さな動物たちの区域という具合に、動物たちに合わせて居住区域が設定されている。
おまけに寒冷地区を維持するために生じた排熱は乾燥地区維持に使われるという無駄のなさ。
小動物の区域は建物がミニチュアサイズだから、泥棒との単なるチェイスでも怪獣映画ばりの大惨事にw
こんな具合に、色んなロケーションが登場するのだから、そりゃワクワクしますね。
……人口比が草食9:肉食1だというのはかなり闇を感じさせますが。
それにヌーディストクラブまで登場するのはビックリしました。人間に置き換えたら挑戦的すぎるw
ついでに脱税の話まで出てくるとかリアルすぎるwこれ、転売ヤーなどから観たら洒落にならないのでは?

夢を叶えたその先で現実とのギャップにもがくジュディと、彼女との出会いから破れた夢への希望を取り戻すニック。
ニックは普段は擦れた奴だけど、時折見せる優しさや切なさが素敵。
このデコボココンビの掛け合いにニヤニヤさせられた人も多いのも納得です。
しかし、ジュディは記者会見での失言からニックの信用を失い、さらにそこから草食と肉食の分断が深刻化してしまう……
ニックの不幸かつ、自分と似たような過去を知った上でああなってしまうのだから、「どんなに善良でも、結局長年にわたって染みついた偏見からは逃れられない」という事実をまざまざと突きつけてくる。
一方で、帰省した後のフォローが非常に上手く、かつて自分たちをいじめていたキツネのギデオンは更生して実家のお得意様となり、両親もキツネへの偏見がなくなっている。
「偏見が生じるのは避けられなくても、相手を知ることでそれを克服することができる」ということですね。
おまけにここで事件解決の手がかりを見つけるのだからマジで抜かりない。
にしても、肉食の中でもキツネがあそこまで蔑まれているのを見ると、ある意味一番の被差別階級なのかもしれない。
キツネは各国の民話で「ずる賢い悪役」とされることが多いからなおさら。

そう言えば本作、イメージの真逆を突いてくるキャラがやたら多い。
デブで怠惰なチーター、ビッグという名前のトガリネズミ、スピード狂のナマケモノ、善玉の象徴ながら黒幕だった羊……
これもまた「先入観にとらわれるな」というメッセージでしょう。
他にも、動物の生態や言い伝えに基づいた細かい仕草でのキャラ付け、何度も観ないと気づかないようなレベルの細かい伏線をこれでもかと散りばめた上できれいに回収……
まさに黄金期ディズニーの実力をまざまざと見せつけた作品でした。
それだけに、スタッフロールで「ジョン・ラセター」の名前を見ると色々と切なくなります。
イルーナ

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