荒野の狼

仮面ライダー×仮面ライダー ドライブ&鎧武 MOVIE大戦フルスロットルの荒野の狼のレビュー・感想・評価

3.0
2014年の作品で、TVシリーズでは「仮面ライダー鎧武」終了後、「仮面ライダードライブ」が始まって10話前後に作られた作品。まず鎧武の世界の事件が描かれ、次にそれとは独立したドライブの世界で事件が進行し、最後に二つの作品の主人公が一堂に会し、二つの物語がひとつに収れんするパターン。私は二つのTVシリーズはリアルタイムで視聴していたが、本作を見たのは2021年で、細かい設定は覚えていなかったが飽きずに楽しく見られた。全体の出来は、他の優れたライダー映画に較べると平均以下の点数。
前半の鎧武編は、地球外から「個がより偉大な全体の一部となること」を理想とするライダーに似る機械生命体との闘い。これに対して、鎧武側は、個の大切さ、異なる個が存在することの意義を掲げて、地球侵略者に対して戦っていく。対立して語られるメッセージとしては、壮大で、侵略者の立場は「偉大な全体の一部になることで、真に意味のある存在となる個」という考え。これは、仏教・ヒンズー教などの東洋思想にある梵我一如のものに近く、また欧米の思想・宗教の汎神論や神秘主義にもあるもので、本来はポジティブなもの。これに鎧武のレギュラーの一部も共感されるのだが、冒頭より、この立場の良さが描かれておらず、ひたすら個を全体に一体化し、個を消滅させる悪とされている。つまり当初の理想が曲げられて全体主義に陥った存在。本作の問題は、この辺が丁寧に描かれていないことで、この前半の部分だけで映画にするくらいの時間があれば思想的に考えさせるメッセージ性の強い作品になったであろう点が惜しまれる。
鎧武編の見せ場は、神のごとく強くなった鎧武と敵の一騎打ちのシーンで、互角の戦いは理屈抜きに楽しめる。何故、敵が強いのかについて、納得できる説明がなされない点は難。本シリーズのレギュラーは、ほとんど登場しているのは嬉しいが、ヒロインの中では志田友美のみが出演し、紘汰の姉役の泉里香と仮面ライダーマリカこと佃井皆美は登場しておらず、この点は残念。
ドライブ編は、主人公のドライブが警察官で、ルパンの名をもつ敵役に対峙するが、TVシリーズにもみられたように謎解きの要素があり、音楽もストーリーにあっており楽しい。しかし、一番の見せ場は、中盤で変身不能になってしまう主人公が一時は絶望しながらも、人として、絶望的な状況に諦めないで立ち向かっていくように変わっていくシーン。ここにおいて、主人公の、変身できるか否かには、もはや、まったく拘泥せずに、変身ベルトに頼らず、個人として持てる力で闘いに挑み、逃げない姿勢は感動的。
ドライブ編は、本シリーズでは仮面ライダーと敵対しているロイミュードが、共通の敵のために、仮面ライダーと共闘する点と、詩島霧子こと内田理央が、はじけた演技で車の操作で仮面ライダールパンを蹴散らす場面の二点が、面白い試みとして評価できるが、いずれも短い時間しか割かれておらず、もう少し膨らませればという思いが残る。
両編をつなぐ最終部分では、世界がまったく異なる鎧武編とドライブ編を、どう繋げるか注目したが、この点では不成功に終わっており、鎧武とドライブの共演は最後まで違和感が残る出来。とくに後半が宇宙での車に乗っての闘いというライダーシリーズでは、得意とする分野でないせいか、盛り上がりに欠ける。
映画全体としては、本シリーズのレギュラーが中心で、大物ゲストや歴代ライダーの登場はなく、従来の仮面ライダー映画の作り方に戻している。そこで、シリーズのファンにお勧めといいたいところだが、充実した本シリーズに比べると映画の方が完成度は低く、シリーズ本編の各回に及ばない。
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