【南に架ける橋】
ヒューマントラスト渋谷の一週間限定上映(実際は計3回上映…)に行ってきました。
脚本はユルイですが、ナヴァ・ラサ(インド特有9つの感情表現)はこってり詰まって、ほぼ満腹。出だしのコテコテギャグに珍しくノレたのでいいな…と思っていたら、後半では愛と、幻想さえ豊かに広がり、最後はホロリとさせられた。これ、限定上映じゃもったいないですよ。
ムンバイに住む40歳のチャラ男が、タミルのラーメーシュワラムに行き亡くなった恩人の散骨をしてほしい…と頼まれるも、悪友と計らい正反対の方向へお遊び旅行に出かけてしまう。
ところがワケあり美女を助けたばかりにトンデモナイ事態に…という王道的なおはなし。でも、飽きないですねえ!
チェンナイ・エクスプレスはムンバイとチェンナイを結ぶ鉄道のようですね。が、チェンナイが終点?で、さらに南にあるラーメーシュワラムまでは行かない。ここポイントかと。主人公ラーフルが悪巧みから乗るのですが、彼が「途中下車する男」であることも示唆しているようです。
何故にラーメーシュワラムで散骨?かは説明されないのですが、この地は古代インド叙事詩『ラーマーヤナ』にて、王子がさらわれた妻を助けに島へ渡るさい橋をかけた場所、とのこと。
インドは北と南の差異が激しい国。ラーフルはムンバイから見た異郷?、タミルへの架け橋ともなる役割なので、その意図からこの地が選ばれたのでは? …てか私はそう思い込み独り、あのラストの余韻を噛みしめております。
差異を面白さに転化するのは例えば、タミルとヒンディー、互いに言葉が通じないのをいいことに、拉致・誘拐騒ぎで緊迫した中、通じる者通しが歌いあって切り抜けようとする。
暗号ミュージカル(笑)。ベタだけどわかり易いし巧い。本作の大きな見どころ。歌には元ネタが豊富で、わかる人にはかなり楽しいようですね。ラーフルを演じるシャールクのセルフパロディてんこ盛り。てか、らしいです(笑)。私はあまりわかりません。
ワケあり美女はディーピカーちゃんですが、彼女が列車に飛び乗る冒頭で『DDLJ』遊び?でいきなりアゲアゲ。私は元ネタ知らずなのにバカウケ。
他、『マイ・ネーム・イズ・ハーン』ネタに意表を突かれ爆笑。『ムトゥ』のパクリもやってますね。こんな遊びが多いから拡大公開しないのかなあ? 『マッキー』よりもシネコン向けだと思うけど。
ディーピカーちゃんは相変わらずキュートですが、表情の発し方が無茶苦茶になってきた気もする。大丈夫だろうか?(笑) でも今回、変顔の極致があって見どころですね!
そんな彼女も愛を知り、後半しっとり変わるところが本作の個人的クライマックス。男でも見惚れるダンスナンバーも出てきます。艶やかですわー。
全般に、本作は鮮やかな色遣いが見どころです。彼女が目覚める舞台ともなる、タミルのある田舎町が年中お祭りのような、幻想的な空気に包まれすごくいい。セットで村をつくっちゃったらしいですが、北から見た南の理想郷なのでしょうか。『きっと、うまくいく』のラストに登場したそれよりずっと優しい場所でした。
結局は殴り合いで解決かよ! という局面は冷めますが、勝ち負けより主人公の通過儀礼として描いているので悪くはなかった。暴力的なところなど、タミルを紋切型で描いている気もしましたが。
南部の観客を取り込みたいボリウッドの思惑は大きいようですが、橋を架けても、わかりあうのはまだこれから、という感じなのかな? エンドロールでは、タミルのスーパースター、ラジニカーントを直球でリスペクトしていましたけれど。
その他、楽しさ・深読み、色々詰まっていましたが、このへんで。気軽に触れられ、笑って驚いてホロリとして、始終楽しい作品でした。とにかく拡大公開した方がよいと思う。その際、できたらトホホな副題は変えるべし(笑)。
<2014.10.27記>