ふき

チャッピーのふきのレビュー・感想・評価

チャッピー(2015年製作の映画)
3.5
人工知能を得た警察用ロボットがギャング集団の中で成長していくクライムSFファンタジー作品。

予告編を見た時、「AIがギャングに育てられる!? しかもギャングは実在のラッパー!? クッソ面白そうじゃん!」と期待していた。ヒップホップを流してYOYO言うギャングの中でのし上がっていくロボットをブラックユーモア混じりで描きながら、南アフリカの暗部の魅力を浮き彫りにしていくような作品だと予想していた。
だが実態はだいぶ違う。
序盤は順当に南アフリカの実情とのちに対決するであろう警察用ロボットたちのあれこれが描かれ「これは期待できるぞ」と思っていたら、前半は純粋なチャッピーがギャング側にポジティブな変化を起こすような展開で「そっち方向? ハートフル方向?」と思っていたら、後半で予想していたギャングロボ化が始まり「え? 今から?」と思ってたら、さらに急カーブを切ってロボとロボの対決が始まり「え、え、え?」とうろたえていたところに「マジで……?」というラスト。それらを真面目な顔した登場人物が、重いトーンの中で非情に陰惨に語っていくのだ。
これは完全に予想外だったが、予想外だったことも含めて楽しめた。
特にクライマックス終盤の展開は、もの凄くよかった。「ウソだろ、まさか……!?」と思う展開ながらも、本編を通じて成長したチャッピーの自然な発想とも分かるので、完全にチャッピーに感情移入して前のめりだった。ハッピーエンドっぽい描き方なのに、シニカルなテイストが強いのも私好み。だって、スカウトは遠隔操作で起動も停止もファームウェアのアップデートもできるのが劇中で描かれているんだから……ねえ。

だが、「あー面白かったー!」と見終われたかというと、そうでもない。
まず本作を振り返ってみると、掘り下げられなかった展開や描写が多かったなと感じる。絵を描いたり創造主に反発したりするAIならではのシーンや、ギャングとロボットの様々な問題、ロボット開発者同士のいざこざなど語られる内容は多いのだが、それらはその場その場の盛り上がりで途切れてしまったり、思い出したように続きが語られたりして、クライマックスに向かってお話全体が絡み合うように盛り上がりはしない。
クライマックスも確かに盛り上がるのだが、それは冒頭からずっと語ってきたテーマの先にある盛り上がりではないのだ。だから結末を分かった上でもう一度見返しても、「あーここでこんなこと言ってたなあ!」などの二回目的楽しさはあまりない。
後は細かいこと言うと、重いテーマを扱っている割りにキャラクターが全員浅はかとか、ギャングが悪人でしかないから感情移入しにくいとか、暴動が起こってるのに現金輸送車が走っていて周りは結構平和そうだなとか色々あるが、その辺りは別にいい。

だが決定的に「ん?」と思ってしまったのは、最後の最後のアレだ。
チャッピーの前提として、「RPGの直撃でバッテリーが外せなくなったのは胸」「スカウトのAIがインストールされるのは頭の記憶装置」「頭の記憶装置にチャッピーの意識はない」の三点がある。ここは間違っていないはずだ。
では最後の「アップロードして記憶装置にインストールされて収納されたアレ」はなに? 読み取る時は特殊な装置が必要だが、読み取ったら既存のハードで再現できる? じゃあもうアレは記憶装置に格納されて、自由に取り外したり複製したりできるようになった? 根本的な部分を読み違えている?

……と最後の最後で気になってしまい、遡ってクライマックス終盤の展開も気になってしまい、スタッフロールの暗い間に「でも考えてみるとこの映画ってさあ……」と冷静に考えてしまったのだ。それがいまいちよくない視聴後感に繋がってしまった。
まあいずれにしても、クライマックス終盤の感動でプラス〇・五点は軽い。焦点がぼやけた作品なのは否定しないが、見て損をすることはない。

あ、家族で見のはNGと一応書いておきます。壁の落書きにしつこくアレが出てくるので。
ふき

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