Omizu

二重生活のOmizuのレビュー・感想・評価

二重生活(2012年製作の映画)
3.8
【第65回カンヌ映画祭 ある視点部門出品】
『スプリング・フィーバー』など中国第六世代の監督ロウ・イエ作品。カンヌ映画祭ある視点部門オープニング作品として上映、アジア・フィルム・アワードでは作品賞を受賞した。

さすがロウ・イエ。邦題には疑問だが中身はしっかり個性を持った作家映画になっている。『スプリング・フィーバー』以降ファンのロウ・イエというひいき目もあるが、一定のクオリティを保った秀作と言える。

邦題よ。確かに二重生活だが原題の「浮城謎事」を無視するか…?ネタバレだし安易すぎるだろ…

まぁそれは置いておくとして、本作ではロウ・イエの人間描写が炸裂している。冒頭の掴みから独特のニュアンスが感じられる。ミステリーであってミステリーじゃない。描きたいのはそこではなく人間たち。

夫の浮気を目撃する妻、捜査する恐らく同性愛者である刑事を中心に時系列を前後させながら人間の愚かさを鋭く描いている。愚かさを描く物語であると同時に情の深さをも含んでいく展開力が素晴らしい。

ロウ・イエにとっては物語は優先度が低いのだろう。どこか退廃的な空気をまとった人間ドラマが優れている。俳優たちをアップで撮り、内面を見つめる視線がダークでいい。

惜しむらくは刑事の描写が中途半端に終わっていること。人間として一番面白そうな人物像なのだが、中国の検閲ではギリギリなのかな。そこが残念だけど、今回は夫婦の話なのでこれぐらいで逆に良かったのかも。結果オーライ。

ロウ・イエのファンとして大いに楽しめる一作であり、物語的にもその描写の深さが感じられる秀作だった。さすがロウ・イエ。
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