マルボロ

幕が上がるのマルボロのレビュー・感想・評価

幕が上がる(2015年製作の映画)
5.0
いろんな要素が絶妙に絡み合った、宝物のような青春映画が生み出された。

舞台は高校の弱小演劇部。どのように演劇というものに向き合えば良いのかわからず立ち止まっていた部員たちの前に、「神様」が現われる。黒木華演じる、元学生演劇の女王だという新任教師だ。そして「行こうよ、全国」を合い言葉に、部員たちは演劇の世界に全力を投入していく。

ストーリーは極めてシンプル。恋愛やトラウマや社会問題といった、しばしば青春ストーリーを支える要素がすべて取り払われて、青春の不安や不確実さを前にして、少女たちが自分の足で前に進み始めていくという、成長のプロセスだけが鮮やかに描き出されていく。

主演を務めるのはアイドルグループももいろクローバーZのメンバー。このキャスティングが、『幕が上がる』という作品にミラクルを生み出している。映画の序盤では、彼女たちの演技にはどこかたとたどしさが残る。しかし作品内で少女たちが演劇に向き合っていくプロセスと重なるように、彼女たちの演技もまた変貌していく。作品内の登場人物の成長と、演者の成長が絶妙にオーバーラップして、フィクション作品であるのにドキュメンタリーのような強さが画面に宿るのだ。

そこで思い出したのが、かなり飛躍するようだが、チャーリー・チャップリンの最晩年の大傑作『ライムライト』。この作品でも、チャップリンが演じる年老いたコメディアンがチャップリン自身の姿に重なる。そして映画のラスト、舞台上で倒れて運び出される老芸人の姿は、長い映画人生を終えようとするチャップリンその人にしか見えなくなる。映画とリアルが重なり合うことで、圧倒的な映画的体験が生み出される。

ちょっと大げさなようだが、しかし『幕が上がる』を観終わった後の「なにか凄いものを見てしまった」という印象は、『ライムライト』を観終わったときのそれとどこか似ているような気がしてならなかった。

もちろん青春映画という点でも、『幕が上がる』が第一級の傑作であることは間違いない。青春に正面からぶつかっていく登場人物たちの姿に、誰もが三度は涙を流すだろう。しかしこの映画には、青春映画の傑作という以上の何かがある。ぜひ、このミラクルを目撃して欲しい。

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