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ナイトクローラーのHIROのレビュー・感想・評価

ナイトクローラー(2014年製作の映画)
4.4
人脈も学歴もないために、仕事にありつけないルイス(ジェイク・ギレンホール)はたまたま事故現場に出くわし、ナイトクローラーと呼ばれるパパラッチの姿を目にしたことで自分もやってみようと思い立つ。より過激な映像を追い求めようとするあまりルイスはとんでもない行動を取ろうとしてしまうお話。

快感と後味の悪さを見事に両立させた秀作でした。

学歴もコネもない人間がのし上がるサクセスストーリーなわけですが、この物語に爽快さなどは全くない。何故なら主人公ルイスは救いようのないようなクズだから。のし上がるためなら犯罪行為だって厭わない典型的なクズ人間。
最初から最後まで真正クズ野郎であることは間違いなくて、微塵も擁護したくなる部分もないようなどうしようもない人間なんですよね。ただ、そんな不快極まりない最低最悪な主人公なのにも関わらず嫌悪感なく観れてしまうのは、テンポの良さと張り詰めた緊張感のおかげ。終始目が離せないんですよね。

まず事故現場や事件現場に駆け付けてニヤニヤしながらカメラを回し続けることができる時点でこの男に倫理観の欠片もないことは明らかだし、同業者を平気で落とし入れる姿は狂気染みていましたね。出世にはそういうことも必要なのは分かるけどさすがにやり過ぎ。
しかも役作りのために12キロ減量したというジェイク・ギレンホールの佇まいはあまりにも不気味で終始異常性が滲み出ていたと思いましたね。

ただ、そんなクズ野郎のルイスだけど、なんとなく見習いたい部分もあるというか。
パパラッチという職業に就き何の知識も無かったにも関わらず彼は誰かを頼るわけでもなく、同業者達の仕事ぶりを見よう見まねし、ネットとはいえ情報をかき集めたりしながらも着実にパパラッチとしての技術をモノにしていく様は本当に凄い。
教えてもらわないと何もできないからとただ突っ立ってるだけの奴らよりよっぽど立派なんじゃないのかと思ったり。ルイスの歩んだ道は正しい道ではなかったかもしれないけど、彼のように自ら行動を起こしていくことの重要性を見た気がしましたよ。

また、仕事のために傍若無人に突き進み次々とのし上がる様も羨ましいというか。
仕事をする上でやっぱり周りの人のことを考え自分のやりたい事を諦めることって結構あると思うんですよね。それが通常の人間の在り方だと思うし、それが1番波風の立たない全うな生き方。
でもルイスは仕事をする上で仁義や情なんてものは一切排除している。時にはしがらみを無視する事も必要なわけで、道徳的に正しいかは別として自分の信念を曲げずに突き進むことのできる人間こそが社会でのし上がることができるのかもしれないと考えてしまいました。

と言ってもルイスの数々のクズな行動はどうかしてましたね。
アシスタントとして雇ったリックを低賃金で働かすという完全なるブラック企業ぶりとか、スクープを押さえるために一線を越えてしまうところとか、ディレクターのニーナとの性的交渉とか。
ただニーナ役を演じるレナ・ルッソが実は還暦を越えてるとはびっくり!
とりあえず僕は60代までもイケるということが分かった記念すべき作品になりました。

過激な映像を要求するテレビ局にも問題はあるわけだけど、それを観たいと思ってしまう視聴者にも問題があるわけで、そういった皮肉を込められた脚本も好きでした!
次々と過激な映像を追い求めるあまり狂気としか言いようのない領域に到達してしまうルイスにもゲンナリしますが、それを受け入れ遂には通じ合ってしまったニーナの狂気にもゾッとしました。

主人公があまりにもゲスいので後味が悪くなるかと思いきや、何故か快感を覚えてしまう不思議な後味と余韻を残してくれる作品。
ルイスに関して見習うべきところも多々あったし、ただただゲスいだけのお話ではないことは確か。
かなりの傑作だと思います。



2015-100
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