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ナイトクローラーのhilockのレビュー・感想・評価

ナイトクローラー(2014年製作の映画)
4.5
人間本来が持ち合わせている道徳観は、生まれえた環境をベースに培っていき、それが土地の風習や文化と根付き、形成し結実され主義・主張となる。その一個人の倫理観が、筋となり脚本へと形を変える。そう考えれば映画のプロットに当たる、構想とそこから発展する物語の起承転結は万民が持ち合わせる結論に行き着くが、本作は全くもって違う。悪しきものはいつかは滅びる(殺される)という明確な勧善懲悪や、数十年前の映画の中で描かれた世界を牽引する力強いアメリカの姿は本作になく、金に巣食う利己主義的な思考が蔓延し、世の中をうまく生き渡らせるものは『エゴ』であるという、ブラックなメッセージが見え隠れする。
 主人公の奇抜さもさることながら、冒頭ジェイク・ギレンホールのアップに正直驚かされた。あの『ブロークンバックマウンテン』の美男子はそこにはおらず、痩せこけた眼光の鋭い、いかにも魂を吸い取られた男が、佇んでいたからである。これで面食らってしまい、本作に引き込まれたことは間違いない。ギレンホールは、2カ月で体重を12キロ落とし、夜更かしをして日中に眠ることで生活リズムをルイスと合わせることで役を近づけたと明かす。
 この痩せた眼光の鋭い男の心の中にある、確固たる自信。これはサクセスストーリーとは見てとれず、サスペンス映画に近い。邪魔なものを目の前から消し去るその大胆な行動は、常軌を逸しており、見ていて不快感しか起こらないのだが、あえてその惨さが印象付けされないのは、製作指揮もつとめたギレンホールの考えでもある。「ダンと僕が、制作中マントラのように唱えていたのは『観客がルーに共感できるように』ということだった。動揺しながらも、彼を応援してほしかったんだ」と語る。描写のえげつなさや、言いようのない倫理観を揺さぶる主人公の行動に、幾分の優しさを感じさせたのはこのためであろう。ギルロイ監督もまた「僕らは登場人物に道徳的レッテルを貼ることを避けようと努めた。観客自身に判断を委ねたかったから、象徴主義的なアプローチを取ったんだ。ルイスが野生動物であり、そのドキュメンタリーを撮影しているかのようにね。たとえそれがおぞましい光景だとしても、ありのまま世界を見せるだけだから、道徳的判断は介在しない。それが僕たちがとらえようとした要素だ」とも解説している。
 視聴率に貪欲なメディアは、きわどい映像を求める。それに答えるため過激な映像を探し求めるパバラッチ。主従関係が逆転する様はアメリカンヒストリーとはほど遠い。第三者的視点から鑑みれば他者の不幸を食らうハゲタカで、そこから社会の病魔を見せつける。久々に映画で再開したレネ・ルッソは、ギルロイの妻でもある。『リーサル・ウェポン』シリーズの強気な女刑事の印象が強く、今回の敏腕プロデューサー役もぴったりと思っていたが、悪魔のような冷徹女性を徐々に占有するルイスの姿は印象的でもある。「自らの探求、欲求のためにどこまで踏み込むか。誰もが道徳上の一線と格闘している。映画で描いたその点が私はとても気に入った」と彼女は役者としてコメントする。共演は、アン・キューザック、ビル・パクストン、リズ・アーメッド。ダンとギレンホール。この二人は今後も目が話せない。
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