おいなり

ワイルド・スピード SKY MISSIONのおいなりのレビュー・感想・評価

4.0
「別れなんてない。俺たちは永遠にファミリーで、兄弟だからだ」

でも、あえて言わせてくれ。ありがとう、そしてさようなら、ブライアン、と。



これまでシリーズを引っ張ってきたジャスティン・リン監督からバトンを引き継いだのは、今をときめくジェームズ・ワン。
ホラー畑出身らしい、観るものの感情を揺さぶるような息詰まる展開と、激しく動き回るスタイリッシュカメラが、いい意味で垢抜け感というか。
個人的には、本作はドタバタしがちなファストシリーズの中でも頭ひとつ抜けて全体のバランスが良く感じる。

なんというか、ジャスティン・リンは観てる人間が死ぬまで口に無理やり料理を突っ込んでくるタイプのシェフなんですが、ジェームズ・ワンはどちらかというと鬼軍曹の如く鞭片手に観客を死ぬまで走らせて、カロリーを極限消費させた上でコップ一杯の水を与えてくるタイプというか。



なにはともあれ本作はジェイソン・ステイサムの演じるデッカードの映画。影のようにどこからともなく現れて任務をこなす。そんなバットマンが如くスマートな、これまでワイスピにはいなかった知性派筋肉ハゲ。
道中、デッカードがどこにいるか突き止めるためにどんな相手も秒で探知できるオーパーツの開発者を探してたはずが、ドムたちがヨーロッパだろうが中東だろうがどこにいてもめちゃくちゃデッカードがストーキングしてくるおかげで、「いや、わざわざ探す必要ないやろお前がそのオーパーツで見つけようとしとるヤツそこにおるで」と突っ込まずにはいられないが、とにかくいろんな話が多重レイヤーで次々やってくるので、ずーーーーっと息詰まるようなピンチピンチ&ピンチが続く。
いやしかし、このテンポ感が異常に良くて、まるでヒップホップのMVを2時間ずっと観てるような感覚に陥った。


本作での暴れっぷりを見るに、ほんとにルーク・ホブスはロック様屈指のハマり役だと思うんだけど、もうヴィンとの共演は見れないのかなぁなんて思うと、やっぱりもったいない。
出番的に美味しいところはもっていくんだけど、もう序盤の病院シーンとかあからさまに、あんな狭い部屋で二人いるのに一切同じカットに入ることがなくて、100%別撮りすぎて悲しくなってしまった。
ちょっとでいいから、最終作には顔出してくれんかなぁ。



新しいファストだけでなく、これまでの積み重ねに対する目配せも素晴らしくて、もうこんなん理想の最終回やん……。
家庭に恵まれ、幸せそうなブライアン。彼の幸せを願い、背を向けるドム。その背を追いかけてくるのは、いつか戦ったスープラ。

「さよならも言わずに、行っちまう気か?」

長い長い、曲がりくねった道を並走する二人。そして、その先の分かれ道で、それぞれの道へ進む二台の車……。
もう、全てがあまりにも美しすぎて、気がつくと涙が溢れてた。
いろんな弔い方がある。ワイスピの中では、ブライアンは今でも生き続けているのだ。たとえ道は違っても、さよならなんてない。400メートル先でも、地球の裏側にいても。
なぜなら、俺たちは永遠に、兄弟だから。
おいなり

おいなり