垂直落下式サミング

博徒一家の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

博徒一家(1970年製作の映画)
3.2
時は明治41年。賭博禁止令施行の頃、浅草荒政一家の親分が引退を表明し、跡目を一家の三羽烏の一人に譲る。あとの二人は分家させて、これらが仲違いせぬよう、それぞれに縄張りを分け与えた。だが、一家を思う気持ちは三者三様で、次第に敵対するようになり、さらには内紛を嗅ぎ付けた他の一家が今だとばかりに攻めてきて、血で血を洗う凄まじい争いに発展していく。
高倉健、藤純子、大木実、若山富三郎、鶴田浩二ら東映オールスターが結集!…と言うと聞こえはいいが、代わり映えがしない。高倉健は同じ年に10本もの映画に出演しており、鶴田浩二は9本、藤純子は11本、大木実は6本、若山富三郎に至っては18本という過密スケジュール。これだけ映画に出ていれば共演することも珍しくなく、実際に僕が観たなかでさえ4本くらい似たようなキャスティングの映画があるので、もはやオールスターという言葉にあるべき有り難みがない。一度当たったら「当たらなくなるまで同じ事を連打する」のが東映の悪い癖だ。
鶴田浩二が独特な口調の優しさで、彼が十八番とする静かな義侠の男を好演。それと対になるのは、体が大きく粗暴でケンカっ早い若山富三郎。博奕打ちシリーズでお馴染みの名コンビだ。決して華奢ではないが撫で肩で心が繊細そうな優男と、その場にいるだけで重力を発生させるような存在感のある巨漢という組み合わせは、まさに静と動の関係。若山が感情を荒げさせたあとに、鶴田が理性的に登場すると、サウナと水風呂を往復したように画面の温度が変化し、場面が締まる。対照的な二人と、まっすぐ一本筋の通った生き方をする健さん。この共演は面白い。
見所がないわけではないが、本作は116分もあり、90分程度を目安に作られている『昭和残侠伝』『博奕打ち』なんかと比較すると、一本の映画としてはややかったるい。任侠映画のファンでなければ積極的に観なくてもいい映画ではある。