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スノーマンの青のレビュー・感想・評価

スノーマン(1982年製作の映画)
4.9
幼少期にVHSで何度も観ていた映画。たまに思い出す切ない旋律の正体。幼い頃に観た作品はたくさんあったはずなのに、なぜこの映画︎が特に印象に残っていたのか。今見返して、分かったかもしれない。おそらく、この映画体験は、人生で初めて悲哀を理解した経験だったのだと思う。

色鉛筆の調子で描かれるアニメーション。ふわふわと動く。表情の軽やかさの演出と、雪が舞う世界観にぴったり。一番の見どころは、まるで飛行機から空中撮影したかのような俯瞰的な視点から、街並みや雪原や海原をダイナミックに飛行する場面だろう。絵本のような可愛らしい小さな世界が、一気に大冒険へと変貌する。街を抜けて、雪山を超えて、鯨の案内でオーロラのもとへ。小さい頃の私は、空を飛びたいと願った。多分、同じことを思った子ども(当時)はたくさんいたことだろう。
バイクで森を抜ける描写もワクワクする。優しいタッチなのに、木々をかわす疾走感がリアルだし、動物達の存在によって、ここは子どもが足を踏み入れたことの無い異世界なのだということが分かる。
「狭い視野×疾走感」の演出直後に、「広大な俯瞰図×ゆったりとした飛行」の演出を配置することで、30分未満の作品なのにも関わらず、緩急がついた、それでいて世界観の広さを感じさせる映像体験を提供することに成功している。(そのせいなのか、そっちの記憶ばかりが強く残り、サンタが登場することは全く覚えていなかった)
ほとんどの場面で雪が舞っている。あれは一つ一つ手書きなのだよね?すごい。オーロラの光の反射も、どうやって撮影したのか。
途切れない音楽は、アニメーションに合わせて調子を変える。メインテーマが素晴らしくって、言葉が出ないです。
ストーリーは、観客の心をズガンと突き落として終わる。少年の悲痛な表情がグッド。というか、この作品をみて、これが「悲痛な表情」なのだと学んだ気がする。一回きりの冒険は、もう二度と繰り返せない。

これは、大人になってから観ると、さらに心に迫るものがありますね。スノーマンとは、私の人生にとって誰のことなのか。あるいは、何らかの経験や、感性なのか。物理法則も何らかの規則も関係なく、遠くの世界を自由に見渡した経験をしたのは、いつが最後だったか。
思い出補正ありきだけど、最高の映画体験だったので、この点数。既に最高の映画に出会っていたことを知れた。
青