イチロヲ

東京行進曲のイチロヲのレビュー・感想・評価

東京行進曲(1929年製作の映画)
3.5
生活困窮のため芸妓になることを決心した女性が、人間的情緒を追い求めている富裕層の青年と知り合う。東京の格差社会と女性の人権問題をスケッチしている、ヒューマン・ドラマ。戦前のサイレント作品であり、菊池寛の同名小説を原作に取っている。

元々は約100分の長編なのだが、一部フィルムの損失により、現存では約30分間の映像で再編集されている。丁寧な字幕のおかげで、損失箇所のドラマを補っていくことが可能であり、戦前の風俗を調査するための資料的価値を見いだすことができる。

「芸妓になってくれる人がいれば、生活が豊かになるのだけどなぁ(横目でチラチラ)」と言われて、ロールプレイングゲームで言うところの「いいえ」の選択肢が許されない状況に陥った女性のメロドラマ。

独自の人生設計を立てて、自分なりに実践することができない時代をカオス的に描写。苦難に耐えようとする女性のジタバタ模様をサディスティックに落とし込むという、溝口健二監督の素地を確認することができる。
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