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ベル ある伯爵令嬢の恋のくりふのレビュー・感想・評価

ベル ある伯爵令嬢の恋(2013年製作の映画)
4.0
【黒い肌の貴婦人】

町山智浩さんの紹介で知り気になっていたのですが、日本では結局、DVDスルーですか。よく出来ているのに勿体ない。

黒人差別を扱いながら、日本人でもすんなり浸れそうなラブロマンスに仕上がっていますが、地味なのかなあ?

18世紀、黒人奴隷の母と、英国海軍艦長との間に産まれたダイド・エリザベス・ベルが、叔父である伯爵の住むケンウッドハウスに引き取られてからの、実話を元にした幸運/数奇な物語。

メロドラマ仕立てでスイーツですが、男の私がみても胸焼けせず、スッキリ気持ちよい後味で終わりました。

最近、黒人差別を黒人監督が描くケースが増えていると思いますが、本作は脚本・監督を黒人女性が手掛けています。これはまだ珍しいのでは?ロマンティックに仕上がったのはそれが理由でもあるでしょう。

そして主人公ベルを最後まで気高く描いたのは、作り手の力だと思います。

わかり易い物語で、私は、ポイントは3つだと思いました。

一つ目は、黒人でありながら貴族として生きたベルの婚活物語。当時の女性には一番の課題だったわけですが、黒人としては恵まれていた彼女も、肌の色が巨大な枷となり大きく苦悩します。彼女には帰れる場所もありません。さて、その結末は?

二つ目は、同じく引き取られた姪である、エリザベスと並んで描かれる肖像画をめぐる物語。ベルは当時の、黒人の置かれた事情から、描かれることを嫌がるわけですが…。

歴史的には、この絵が2000年代に入って公表されたことから、ベルの存在がようやく広く、知られるようになったそうですね。本作もその流れから作られたのでしょう。

実際の絵はググるとすぐ出てきますが、知らない方は、映画を先に見てから、元の絵と比べると面白いと思います。たいへん進歩的な絵ですが、やっぱり差別的な表現は残っていますね。映画はその部分をソフトにしていて興味深い。

私は単純に、当時、黒い肌の少女に関してツッコまれたらインド人ですよ、と誤魔化そうとしたんじゃないかと疑っています(笑)。

三つめ、これが一番興味深かったのですが、「ゾング号事件」とベルの人生がクロスするところ。

(当時)公開中の『ターナー』でも、ターナーの画題となったことが出てきますが、航海中の奴隷船が、蔓延した病気に罹った百人以上の黒人奴隷を海に捨ててしまい大騒ぎとなった事件。

それが裁判になった理由もスゴイですが、この時の判決が奴隷制廃止につながったとも言われる画期的なもので、その担当判事がベルの叔父、マンスフィールド伯爵だったんですね。

ベルは賢い女性だったそうで、判事の仕事も、異例に手伝っていたとか。判決に、ベルの影響があったとも言われていますが、映画ではそこを、なかなかドラマチックに描いています。

歴史的に結果がわかっていることばかりだし、終盤に向けかなり都合よくコトが運んでしまう弱みもありますが、全般、小賢しくアイロニーを込めるなどせず真っ直ぐ撮り、それで成果を上げており、好感が持てました。

「たとえ世界が滅びるとも正義は行われるべき」なんてセリフは、受け取り方次第でとても怖くなったりしますけどね。

ベル役ググ・バサ=ローさんがはまり役。聡明で、すごく信頼できそう。余計な色気もないし。

よき姉妹ともなるエリザベス役、サラ・ガドンさんにも驚いた。さして作品みてないですが、クローネンバーグ映画ではクールビューティが持ち味と思っていたので、受け身の箱入り娘がこんなに嵌るとはね。

今回はベルに花を持たせてあげましたと。実際には、ケンウッドハウスではエリザベスが主役だったでしょうからね。

<2015.7.21記>
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