Morohashi

フォーカスのMorohashiのレビュー・感想・評価

フォーカス(2015年製作の映画)
4.0
本作のキャッチコピーはポスターにある通り"視線"を盗め。

FOCUSとは視線という意味もあるが、本作では視線や焦点という意味ではなくて、注意や集中のこと。
もともとfocusの語源はラテン語のfocus(暖炉)。
部屋の中心に光を放つ暖炉があることから、まずはfocusは中心・焦点という意味になった。それがさらに集中という意味に派生した。
なるほど、外来語としてのフォーカスは見ることに関わることが多いからキャッチコピーも「"視線"を盗め」なんだなーと思った。
英語って難しい。

さて、本作は何かを盗み出すクライム系の映画には違いないが、他人の意識を操作することを中心にした映画。
過去にはスティングだったりがこういう作品だったし、オーシャンズ12もちょっとそういう傾向があった。
頭脳戦で何かを盗むという作品群で言えば、ここ数年ではとてもいい出来栄えだと思う。

さて、前半はひたすら窃盗に次ぐ窃盗。
よく「観光地に行ったらスリに気をつけよう」と言われる。ローマ、パリ、ロサンゼルス…。あらゆる場所でスリや置引の注意が促されている。
しかし映画を見て思った。
「いやこんなプロ集団がやってるスリ、対策のしようがなくない??」財布、腕時計、指輪…。
持ってる金目のものは身ぐるみ剥がされる。恐ろしい。

やっと僕の持っていた違和感がスッキリした。
なんとなく僕は、スリは生活に困窮している人がやるものだと思っていた。
でも観光地では全くスリ集団が捕まる気配がない。
そうか、スリはスリを仕事にしている人がやるんだ。プロフェッショナルなんだ。
今度から、人を見た目で判断するのをやめようと思った。


さて、余談がすぎた。

前半はひたすら、窃盗に次ぐ窃盗。
前半の最後に、フットボールスタジアムでのクレイジーな賭けがある。すごくハラハラした。ハラハラしすぎた。

ここで気がついた。
「これは観客がジェス(マーゴット・ロビー)に感情移入するように作ってあるんだな」と。
何も知らないジェスはただ振り回されるだけ。ニッキー(ウィル・スミス)にフォーカスをずらされ続ける。かなうわけがない。
映画的にこのスタジアムで終わっていれば、また印象が違ったかもしれない。
ところが、まるで「サイコ」のように突如感情移入していたはずのジェスは姿を消してしまう。
サイコでお姉さんがシャワー中にナイフで刺されたときもそうだった。
一体これから、誰に感情を任せて生きればいいの?と。

舞台は突如3年後、ブエノス・アイレス。
ここでのプロジェクトは、前半の窃盗に比べて結構複雑。
これが非常に混乱をきたす。
さらに、いろんなキャラクターが別の役割で次々と再登場する。
これがさらに混乱をきたす。

観客自身が「フォーカス」を定められない中、突如ジェスが水着で登場したり、監督がやたらと僕のフォーカスに揺さぶりをかけてくる。
そしてまたしてもジェスはニッキーに振り回される。

ここでまた思う。結局。
「観客はジェスと同じ視点なんだな」と。

そしてそれ以上に思う。
監督は観客のフォーカスを揺さぶって、不都合な部分を見えなくさせていたのかな、と。
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