かるまるこ

ブラックパンサーのかるまるこのレビュー・感想・評価

ブラックパンサー(2018年製作の映画)
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【善悪が反転した貴種流離譚または単なる貴種譚】

貴種流離譚では、棄てられた「王(の血を引く者)」が「善」となるので、本来ならキルモンガーが主人公であるはずなのだが、今作はそれが反転している。

貴種流離譚は物語構造の根幹を成すもので、建物で言えば大黒柱にあたる。

そこが歪だと物語全体が狂ってくる。

ディズニーがどれだけ口を出したか定かではないが、近年ディズニー資本で作られる映画はそこを安易にいじりぎるきらいがある。

例えば『アナ雪』では本来善悪に振り分けられるはずの姉妹を「善」として描いたせいで王子が「悪」になってしまうという構造的欠陥があるが、今作もそれと同じ轍を踏んでいる。

ポリコレを気にしてなのか知らないが、安易に善悪を相対化してしまったせいで物語のエンジンが中々かからない。

キルモンガーの背景が語られ出して初めて物語が機能し始めるが、冒頭1時間ダラダラしたのが祟って、貴種流離譚で最も重要な「流離する過程」がガッツリ端折られ、何の意味もなくなっている。

流石にこれではマズいと思ったのか、今度は国王ティ・チャラで、貴種流離譚をもう一度語り直す始末(でもやっぱり時間がないので流離過程は大きく端折る)。
しかも「国王の川流れ」というめっちゃベタな展開(貴種流離譚において、王となる主人公は大抵、川に流され、棄てられる)。

これでは冒頭1時間が完全に蛇足になってしまうし、そんなことなら最初からオーソドックスな貴種流離譚をやって、きちんと流離過程を描くべきだった。

さらに言えば、ティ・チャラは貴種流離譚的には本来悪役で、しかも困難を経て王となる過程が省かれているので、最後の演説に全然カタルシスも説得力もなく、それどころか、耳障りの良い美辞麗句を並べ立てているが、ヴィブラニウムを巡って今後各国が争うことになるのは目に見えているので、演説が単なる覇権主義の表明のように聞こえてしまう。

キルモンガーを主役にしたのでは従来の黒人映画の文脈になってしまうし、単純な勧善懲悪では今の時代の多様性は描けない。

だからこその善悪の相対化なのは良くわかるし、何か新味を出そうとする姿勢は買うが、これでは単なる「貴種譚」、つまり王族同士の権力争いの話でしかなく、虐げられた者が自ら想いを仮託するべき文脈がごっそり抜け落ちてしまっていて本末転倒だ。


TV放映用に大幅にカットしたせいで、こうなってしまった可能性もあるので、(だとしたらヘタクソすぎる)
採点は保留します。
かるまるこ

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