えり

プリデスティネーションのえりのレビュー・感想・評価

プリデスティネーション(2014年製作の映画)
4.0

「卵が先か、ニワトリが先か」

タイムパラドックスが生み出した1人の人生の悲劇。


一番最初に見せられていたシーンはラストシーンだった!という驚き。この作品、見終わってまた最初から再生すると、永遠に終わらないタイムパラドックスにはまってしまいます。主人公の人生みたいに…。


タイムトラベル装置を使って過去の爆弾魔が引き起こした事件を事前に食い止める時空警察として働くバーテンダーの男。爆発に遭い、顔の皮膚を移植した過去を持っている。バーで彼の前に現れたある青年は自らの過去の信じがたい話を話し始めるが…。

タイムトラベルのお話ですが実に巧妙。考えれば考える程面白い‼️鑑賞前にネタバレ知っていたのですが、それでも面白かった!

脚本が良くできているのはもちろん、所々に散りばめられた伏線が実に巧妙で、気になる点はあるのですが、見るたびに新たな発見がありそうな作品でした。





⚠️以下ネタバレ⚠️(あらすじメモ)
















全て同一人物の話。

バーに現れた青年(ジョン)は過去のバーテンダーの男の姿。後に自分と同じ時間軸に重なるように彼の人生を合わせるため、時空警察の男はバーテンダーとなり、そのバーで青年を待っていた。ジョンはもともと女性(ジェーン)だったがある男性と恋に落ち、女の子を出産。しかし相手の男性は行方不明、女の子は誘拐され、自らは出産による命の危険から守るため、子宮を摘出し、その後男性、ジョンとして生きる事になった。実は彼女は両性具有だった。

バーでジョンに、「お前の人生を狂わせた男に復讐できるとしたら?それもお咎めなしで」と誘い、ジェーンとある男が出会った過去にジョンを連れて行く。しかしそこにある男は現れず、ジョンは昔の自分であるジェーンと接触してしまい、「ある男」が自分自身であった事に気づく。そこでジョンは過去の自分と恋に落ちてしまう。
2人を接触させる事に成功したバーテンダーの男はすぐ未来にジャンプし、赤ちゃんを誘拐。過去のジェーンが育った養護施設に連れて行く。これが後のジェーンとなる存在で、彼女は、未来で男性になった自分と、後に自分となる存在を出産していた。これで自分で自分を生む命のループが完成。

でも同族など遺伝子の近い人同士が交配すると遺伝子異常が起こるというし、ましてや全く同じ遺伝子同士の子供だとなんらかの障がいがあって産まれてもおかしくないですよね。それに両性具有とは言え、子供を産んでからの性転換なので男性としての生殖機能が果たしてジョンに備わっていたのか?このタイムトラベルの人生は永遠に続く事はないのでは、、という疑問は残りました。

バーテンダーはジョンに、「俺も同じようにジェーンを愛している」「自分の事が分かってきたか?なら俺の事も分かってくれ」と言う。そこでジョンは、このバーテンダーは自分の未来の姿だと悟り、彼の仕事を継ぐことにする。後に爆発に遭い、火傷を負ったジョンは皮膚移植をし、バーテンダーの男の顔となる。

一方でバーテンダーの男はNYで起きた大爆発を阻止しようと1人タイムトラベルをし、爆弾魔を始末しようとするが、それは未来の自分の姿だった…。そして爆弾魔となった年老いた自分を自分で射殺するのであった。その後バーテンダーは度重なるタイムトラベルの後遺症で精神病や認知症を発症し、時空移動装置を使って爆発を起こす爆弾魔と化すのであった…。そこまで描写されてませんが、ジョンが存在する目的となるため、バーテンダーはその後爆弾魔となる運命だったのでしょう。


「俺は俺のおじいちゃん」など、ヒントとなる発言が多々あり、見る人に考える楽しさを与えている所が良い。タイムトラベルの良さを存分に活かしているなと。主人公は1人の人間でも時間によって別人のように性別や容姿、思想が異なるという所も面白い。英語で名無しのごんべえ的な意味合いの「ジェーンドウ」や「ジョンドゥ」から取ったのか、名前から彼らの存在が不確かである事を示唆しているのもワクワクしますね。それともジェーンとかジョンって名前を向こうの人達は何となくよくつけるんでしょうかね?

自分から生まれたのだから当たり前ですが、身寄りのない彼らが辛い人生の中で愛(ジョンとジェーンの愛、生まれた子)や目的(爆弾魔を阻止する事)を見つけた時、それが自分によって作り出されたものだと知った時の絶望は計り知れない。彼らは時の流れから完全に切り離された存在であり、他者とのつながりを持たない孤独な存在だった。

自分によって生み出され、自分により殺される…まさにタイムパラドックスが生み出した悲劇のお話でした!
えり

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