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スポットライト 世紀のスクープのdubstronicaのレビュー・感想・評価

4.0
「アイスは食べる前に溶けてしまったよ」

アメリカ・ボストンで数十人もの神父による性的虐待を教会が組織ぐるみで隠蔽してきたというスキャンダルをボストン・グローブ紙がスクープした実話に基づいた映画。事前情報はアカデミー賞を獲った以外はほとんど入れずに観たが、あっという間の2時間だった。

新しいユダヤ系の編集局長がマイアミからボストンに赴任してきたことをキッカケにスポットライト班が地元ボストンで起きていたタブーに切り込んでいく過程を、印象的なスコア(サントラ良い!)とともにじっくりじっくり見せてくれる。

スポットライト班にキャスティングされた役者陣が実力者揃いで、それぞれのバッググラウンドをサイドストーリーを使ったりしながらじっくり描くという感じではないと思うのだが、自分もチームの一員になったかのように引きこまれてしまった。
マイケル・キートン、マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムスの3人は元々好きな俳優たちだが、他の作品の比べても過剰な装飾のないスゴい演技だった。
なかでもマーク・ラファロは素晴らしく、その朴訥としたチャーミングなイメージの奥にある熱さがクライマックスに炸裂していた。いつかこの人で『刑事コロンボ』を観てみたい。
マイケル・キートンとレイチェル・マクアダムスは共にコメディ映画での活躍のファンでもあったので、もっと「派手」にもできる人たちだからこその落ち着いたテンションにこちらも真剣にならざるをえない。
『マッドメン』が終わってスケジュールが自由になったのか最近良く見かけるようになったジョン・スラッテリーはさすが管理職ポジションをやらせたら見事だし、個人的に『スクリーム』や『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』の印象しかなかった新編集局長バロン役のリーヴ・シュレイバーもストーリーの起点となるキーマンの役を見事に果たしていてガラッとイメージが変わった。
みんな大好きスタンリー・トゥッチの今回の役どころは新編集局長バロン同様ストーリーのバランスを掴むためにかなり重要な人物で、その調整役とも言えるポジションをバッチリ果たしてるいぶし銀っぷり。

これらの癖のある役者たちがチームとして一丸となって映画の大切なテーマを守っている感じが本当にグッときて物語の中〜終盤は自分としては珍しく何度か感極まってしまった(泣かすようなタイプの映画でもないと思うのですが)。

冒頭のセリフは、子供の頃アイスを食べに行こうと神父に誘われその道中で性的虐待を受けた男性がその時の状況を告白するシーンでのひとこと。神父と児童という明らかなる権力・立場の差で被害にあう児童は恐怖と動揺のパニック状態のまま抵抗できずに言われるがままになってしまうが、自分の意思では抵抗できなかった目の前の恐怖から防衛本能的に意識を逸らすさまがこの一言のリアルさに感じられて恐ろしかった。
題材が題材だけに一見スキャンダラスな、仰々しい物になるのかと思いきや、もっとどっしり地に足の着いた展開で、スポットライト班が何を使命としてこの事件に携わっていたのかという、なによりこの映画の魅力的な部分を、要所要所で立ち上がってくるスコアのメインフレーズとオフィス内の印象的な薄暗さの映像が相まったなんとも言えないムードで支えている。
「巨大な悪」を追っているスポットライト班の当人たちも「では自分は何をしていたのか?」ということに直面する、正義と悪と一概に言えないとてもむずかしい状況の先にある「正義」をガッツリ表現してて惚れ惚れした。

好きなタイプの映画だ。
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