くるみ

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅のくるみのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

ハリー・ポッターシリーズは、原作も映画もリアルタイムで体験しました。
作品として見た場合は、途中で読むのをやめた期間もあったくらい(5巻じゃなく4巻です…)いびつさが気に障りました。手放しでの賞賛はできかねます。特にリアルとファンタジーの設定配分ミスがのちのちまで響いたなという印象が強い。ハリーたちの成長のためにあの世界の豊かさや複雑さが犠牲になっているようにも感じました。
とはいいながらも、『幻の動物とその生息地』を含めて何回も何回も読み返したし映画もすべて劇場で鑑賞しました。読んでいるあいだも見ているあいだも大変楽しかった。朝イチで新刊を購入したことも映画を予約した瞬間も、すべて得難い思い出として保存されています。

よって、映画オリジナルのスピンオフシリーズをどう受け止めたらいいかは測りかね、いつものごとく事前情報ゼロの状態で見に行きました。
結論から言うと、想像をはるかに越える素晴らしさでした。あのときリアルタイムで読んでいた私も、もう少し多様な見方を身に着けた私も、どちらも満足できる内容でした。時代としては遡っているのに、現代版にアップデートされているのが最高でしたね。

導入部、魔法界の新聞がぱらぱらと捲られていく映像で「私は魔法界に帰ってきた」「私が興味をなくしていたこの数年間も魔法界は存在していたんだな」と思ったし、アメリカに入国するニュートと一緒に心細さとわくわくを体験できるという流れが冴えていた。
中盤はとにかく、ハリー・ポッターシリーズになかった事柄をつぶさに見られて楽しかったです。私は魔法界の歴史や制度や法律をもっと知りたかったし、大人たちがまっさらではない過去や世知辛い現実に縛られながら働くところがもっと見たかった。つまりハリー・ポッターシリーズのいびつさがバランス良く整えられていました。その反面、J・K・ローリングのダークさはちゃんと炸裂している(子供を殺すのは常に大人であるとか)。映画という総合芸術ならではの成果でしょうか。

何より、テーマが現代にフィットしていました。登場人物の誰もが異邦人でひとりぼっちで、他の誰とも違っている。けれど、あなたが私を見つけることで私はこの世界に存在できる。目に見えないものを見ようとするのも人間で、見えなくしているのも人間である。魔法族、非魔法族にかかわらず。
グリンデルバルドの言い分に一理あると思わせる、地下のシーンが非常に良かったです。

アメリカ合衆国の大統領選挙後に見たことで、現在と禁酒法下の1920年代はそう変わらないのかなと感じました。シリーズが進めば、作中で語られる概念も世相に従ってアップデートされるのでしょうか。楽しみです。

2016/11/23
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