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心が叫びたがってるんだ。のnrのネタバレレビュー・内容・結末

心が叫びたがってるんだ。(2015年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

二度目の鑑賞。前に見たのは確か空青の予習時。
直近で読んだ岡田麿里氏の自伝とからめて少々書く。

そもそも自伝がここさけやあの花に沿ったエピソード構成になっているので偏りは当然あると思うのだが、それでもここさけは岡田麿里のパーソナリティが存分に出た作品だったように思える。

自分の言葉がきっかけで人を傷つけ自罰的な反省で言葉をうまく話せなくなる様子や母親から言われた言葉なんかは自伝の通りだし、歌詞の執筆に物語を書き上げた順は歌でなくても文筆家、それこそシナリオライターとしての適正まである。
何より岡田麿里氏が自伝でライターとして大成するかどうかの基準として挙げた「とりあえず完成させる」「批評を恐れない」を順は図らずも達成している。加えて最新作であるアリスとテレスのインタビューでも答えていたがアニメの脚本は共同作業。これはここさけの劇脚本も同様で、人の意見を汲み取って形にする作業工程はなんら変わりないのだ。なので私は将来的に、順はシナリオライターになっているのかななんて思った。

本作はミュージカル映画としても面白い。と言ってもミュージカルシーンは無いのだが、歌(と、それによって紡がれる言葉)が状況をひっくり返す様相は爽快だ。後年日本のアニメ映画界は『アイの歌声を聴かせて』という傑作ミュージカルを輩出するが、思えば本作は“日本のアニメ映画でミュージカル”という区分において走りのような存在だったのだと、今回改めて鑑賞して気付かされた。

また本作は後に秩父三部作として括られるところの前作にあたる『あの花』との結びつきも強い。岡田麿里氏のパーソナルな要素を組み込んだ両作だが、ここでは先にも挙げた“自罰”について取り上げたい。
あの花は幼少期に仲良しグループの一人が死んだことで、誰しもがその子の死に囚われ続ける話だ。その子に関わりのある誰しもが自分のせいだと自罰し、拗れていくあの花。
そんな自罰にここさけは改めて「誰かが100%悪いなんてことない」と回答した。死ではないにしろ、ここさけのキャラクターたちも皆過去の罪に囚われており、坂上はお互いを見つめ合うことでこの答えに辿り着きトラウマだったピアノも弾けるようになった。同様に描かれる各キャラのトラウマの融解が、自身の殻を破る行為へと繋がっているのだ。

もう一つ、今回見てようやく気がついたのだが、終盤のラブホで順が自分の言葉をぶつけた段階で、坂上は順にとっての神社で語られていたような、人の言葉を蓄える卵になっていたのだろう。そして同時に王子の配役は田崎にシフトした。ラストの歌唱時の立ち位置も示唆的だ。
それか、順にとって必要だったのは卵だった、という話なのかもしれない。自分を守る殻としての卵、言葉を吐き出す対象としての卵。殻の外から引っ張り上げてくれる王子様は確かに物語の開始時点では必要な存在だったが、終わりに進むにつれ本当に必要だったのが卵であることを悟った、なんてのはあるのではないだろうか。

自伝を読んだ上で改めて見ると発見が多くて楽しかったです。初見の時は順の母が車の中で集金を払ってくれたことにお礼を言うシーンが印象的でそこが一番良かったと記憶していたけど、改めて見るとかなりなんてことないシーンで当時の自分がどれだけのめり込んで見ていたのかが分かりました。何度見ても良い映画です。
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