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ピエロがお前を嘲笑う(2014年製作の映画)
3.6
 透明人間になりたいという青年の独白、ホテルの部屋で惨殺された3人の男の死体、指名手配のハッカーであるベンジャミン(トム・シリング)は自ら警察に出頭し、ユーロポールの捜査官であるハンネ・リンドベルク(トリーヌ・ディルホム)に面会と聴取を求めた。自分が盗んだ情報が元で、彼の仲間たち3人が次々に殺され、今度は自分自身の命が狙われているという。学校では苛められて孤独に過ごしていたベンジャミン。スーパーヒーローに憧れた少年の幼い頃の夢は、14歳でハッキングを覚えたことで突如開花する。世界をハッキングすることを夢見る未来の革命家マックス(エリアス・ムバレク)に才能を見込まれた彼は、その仲間に加わる。やがて、マックスの仲間シュテファン(ヴォータン・ヴィルケ・メーリング)やパウル(アントニオ・モノー・Jr)と共に、ハッキングチーム“CLAY”を結成。ドイツ経済界の管理システムをハッキングし始める。だが、その行動は、ヨーロッパ警察ユーロポールやライバルのハッカーチーム“MrX”の関心を引く結果となった。さらに危険な世界へ足を踏み入れたベンジャミンたちCLAYのメンバーは、ユーロポールやMrXのみならず、ロシアのサイバーマフィア“FR13ENDS”まで巻き込み、やがて命の危険に晒されるようになってしまう。そこから抜け出せるかどうか、全てはベンジャミンの天才的なサイバー能力にかかっていたというが、捜査官はその自白を元に捜査を始めるが、証言内容に合致しない事実が次々と明らかになってゆく。

 冴えない日常を送るベンジャミンの前に、ある日突然マックスが現れる展開は、バラン・ボー・オダーの前作『23年の沈黙』と同工異曲の様相を呈す。その一方で彼が中学時代から片思いするマリ(ハンナー・ヘルツシュプルンク)との恋はなかなか成就しない。彼女の心を掴もうと、試験問題を盗み出そうとしたベンジャミンだったが警備員にバレ、あえなく捕まってしまう。前科がない代わりに、50日間の社会奉仕活動を命じられるのだが、その淡々とした日常の中で出会ったマックスの悪魔の導きにより、次第に悪に手を染めて行く。ハッキング行為をまるで手品のように用意周到にこなすベンジャミンの思惑は最後の最後まで明らかにされることはないが、ハンネたちは彼の自白を元に捜査を進めて行く。肉体的なアクションを伴うことがない「ハッキング」という概念を、地下鉄の車両で表現したイメージの連鎖はなかなか斬新に見える。憧れのMrXに追いつこうと、CLAYは炎上覚悟の態度表明を繰り返し、次第に世界中の注目を浴びるまでに登り詰めるのだが、彼の行為には非情な落とし穴が待っている。ひたすら陰惨な展開に終始した『23年の沈黙』の反省点を踏まえ、ベンジャミン、MrX、ハンネの三者三様の物語には前作以上に複雑な伏線を張り巡らせている。3年前に発症した祖母の認知症、マックスに奪われた最愛の人マリと目の下のアザ、クリプトンの死体と真犯人とミスリードする19歳の少年の姿、そして主人公の統合失調症。様々な反則的なアイデアを用いながら二転三転する物語は、ブライアン・シンガーの『ユージュアル・サスペクツ』を真っ先に想起させる。裏の裏の裏まで暴いた今作は、ドイツ国内で異例のヒットを記録した。
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