Miller

ナショナル・ギャラリー 英国の至宝のMillerのレビュー・感想・評価

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鑑賞する人々。展示方法を考える美術館スタッフ。
鑑賞する客に語る学芸員。修復、維持を行う人々。
美術館の予算やイメージ戦略等の運営をするスタッフ。
このドキュメンタリー映画では、ナショナルギャラリーに関わる人全てを映し出そうとしているのではないかと感じる程、様々な人が撮影されている。
さらにその展示物について、議論する人々、講義する人々、語り合う人々のそれぞれの言葉、黙々と鑑賞する人々の表情、その対象である展示物が交互に映し出され、それをひたすらに観察していく。
美術館についての誰かの説明を撮影するのではなく、美術館に関わる人々と展示物、展示空間を個々に撮影することで、その美術館がどういった存在なのかがより明確に伝わってくる。

このドキュメンタリー映画の中で、学芸員が学生に対して絵画の物語の語り方についての講義の場面がある。
「絵は一つの図像の中で物語を語る。本や詩には時があるが、絵には唯一それが欠けている。映画は2時間かけて、登場人物を紹介し話の筋を展開していく。長い本は一冊読み終わるのに半年以上かかることもある。読者は半年、物語と共に暮らす。その間、様々な人々が現れ様々なことが起きる。つまり時がある。絵にはそれがない。絵を見る一瞬の間に物語を語るんだ。」  
このドキュメンタリー映画には物語はなく、話が展開することもない。
会話などで時間が流れることはあるが、それぞれが切り取られた時間で、連続するものではない。
また別の学芸員が教師に講義する場面においては「当館は人間の姿を観察するまたとない場です。それぞれが絵に対する独自の応じ方を探ってほしいのです。今のあなたとの関係性を見つけることです。」と講義する。
3時間という時間に、映し出されるモノと人々を観察する場が与えられることで、その観察対象との関係性を無意識に探ろうとしていることに気づかされた。
美術館や展示物を語る言葉が、この映画自体のテーマや、自分自身の考えに不思議と符合し、繋がる体験をもたらしてくれる、とても興味深いドキュメンタリー映画だった。
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